敬語なのかタメ口なのか
名字で呼ぶか下の名前で呼ぶか
──「Mother」では「うっかりさん」、「Woman」では「なまけものさん」、「いつかこの恋を思い出してきっと泣いてしまう」では「引っ越し屋さん」、「カルテット」と「anone」では「夫さん」。「さん」づけが出てくるのは?
坂元 「うっかりさん」っていうのが自分のなかで気持ちよかったので、なかなかあれを超えるものがでないんですけど、ちょっと「さん」づけは好きですね。
テレビドラマって脈々とあだ名で呼び合う文化があるんですよね。
昔のドラマで言うと、刑事たちが「ジーパン」とかあだ名で呼び合うのも子供っぽいじゃないですか(笑)。芦田愛菜ちゃんや鈴木梨央ちゃんが言う「うっかりさん」とか「なまけものさん」は、子供っぽさを出そうとしていたのかもしれませんね。
だいたい僕は、人の名前も「名字にさんづけ」で呼び合うお話を書いているし、人と人との距離感を、できるだけ敬語とタメ口を使い分けて作ろうと心がけています。
タメ口だけの会話って面白くないんですよね。すごく仲のいい友達同士の会話や、仲のいい夫婦には興味がなくて、そこにズレが生まれるから面白い。
人と人との間に足りない距離があって、会話が気まずかったり、意志がちゃんと伝わらなかったりするレベルのちょうどいい遠さ、ちょうどいい近さがあって、それが展開の中で伸び縮みする。そこを描くために敬語とタメ口を併用して混ぜているんです。
「カルテット」の4人も、お互いに敬語を使いながら、名前を呼ぶ時は「別府さん」「家森さん」。「巻真紀さん」は、わざと名字か下の名前かわかんないようにしたし。そのなかで「すずめちゃん」だけ名字で呼ばれてないっていう。
あの4人の距離感が近すぎて、「諭高」とか「司」とか呼び合ってたら、ドラマの世界観自体変わってきますよね。最終回では小ネタとして書きましたけど(笑)。
敬語なのかタメ口なのか、名字で呼ぶのか下の名前で呼ぶのか、そういうことで生まれる関係性って、ささいなことじゃなくて、ドラマの根底を成すものだと思ってます。
2018.11.09(金)
構成=上田智子