ダッフルコートのポケットに唐揚げ
──ドラマの音楽は坂元さんが希望を出されることもあるんですか?
坂元 サントラはディレクターがプロデューサーと相談して決めるものです。「こんな感じの曲がいいなあ」ってイメージを伝えるときはありますけど、基本的に音楽はお任せですね。
実際に出来上がったものを見て、音楽が人物の感情を説明しすぎてたりしたら、「こういうことはやめましょうよ」って言ったりしますけど。
──坂元さんは「雑談を書くのが一番楽しい」とおっしゃっています。登場人物の会話で「私の知り合いの誰々さんって人が、こんなことを言ってたんです」といった、「知り合いの誰々さん」の話がよく出てくるのはなぜですか?
坂元 たとえば僕に起きた面白いエピソードがあったとしたら、僕が話すより、それを見ていた誰かがしゃべったほうが絶対面白いじゃないですか。
そもそも他人の話は面白いと思ってるし、「誰々にこういうことがあったんだよ」って、そこにいない人のことを面白く話すっていうのは、雑談界の四天王のひとりだと思ってます(笑)。
──確かに、他のドラマにはあまり出てこないけど、日常生活では普通に「そこにいない誰かの話」をしますもんね。
坂元 そう、普通のドラマではやらないですけどね。僕はそういうことも必要だと思ってるから。
決してその雑談自体を書きたいわけじゃないんですよね。基本的に僕が書く雑談は、登場人物が言いたいことを隠そうとしているときに書いていて。
本来そこで話すべきこと、話されるであろうことが話されずに、関係のない誰かの失敗談を話しているから興味が持続するし、面白いんですよね。
その隠された感情がなくて、いきなり他人の話をしてもただの余談になっちゃう。登場人物の感情が別の方向を向いていて、お客さんもそれを知ってるのに、「他人の話」をはじめるから面白いんだと思います。
「いつかこの恋を思い出してきっと泣いてしまう」の5話で朝陽(西島隆弘)が話す「ポケットに唐揚げを入れている近藤さんの話」は、僕自身のエピソードですね。
5年ぐらい前まで何故かカバンを持たないというポリシーを持っていて、商店街で買った唐揚げをダッフルコートのポケットに入れてたことがあるんですよ。
その後、人と話している時に唐揚げのことを思い出してポケットから出してなにげなく食べたら、「おまえ何してるんだ」って言われたことがあったっていう(笑)。
2018.11.09(金)
構成=上田智子