平清盛の時代に描かれた日中謀略外交アクション絵巻

 そのコレクションの逸品を集めた「ボストン美術館 日本美術の至宝」が上野の東京国立博物館で開催中だ。中でも注目したいのが「在外二大絵巻」と呼ばれる《吉備大臣入唐絵巻》と《平治物語絵巻 三条殿夜討巻》。

 平安時代は「物語の時代」だった。『源氏物語』をはじめとして、仏典のエピソードや教訓話、不思議な言い伝えや下世話な噂話、貴公子と姫君のロマンティックな恋物語まで、数多くの物語が読まれ、その物語を生き生きと伝えるための絵が描かれた。

 平安末期、ちょうどいま大河ドラマで放送されている平清盛の時代は、絵巻制作がもっとも盛り上がっていた時期だ。その中心となったのは院。天皇位を退きながらも政治の実権を握り、権勢を揮った上皇・法皇とその后たちだ。幾度も失脚と復権を繰り返しながら源平の騒乱を生き抜いた後白河法皇(1127~1192)は、中でも絵巻の制作や収集にとりわけ熱心だったことで知られる。

 絵巻のテーマも多種多様になっていった。9世紀末に菅原道真の提案で遣唐使を廃止して以来、中国との正式な国交は途絶えていたが、清盛が中国との国交を正式に開いて貿易を振興したことから、外国を素材にとった絵巻も作られるようになる。その代表作が《吉備大臣入唐絵巻》だ。

吉備大臣入唐絵巻(部分) 平安時代・12世紀後半 ボストン美術館蔵 Photograph (C) 2012 Museum of Fine Arts, Boston.

 名前だけ見ると難しそうだが、舞台ははるか昔の8世紀。遣唐使として中国に渡った奈良時代のジャック・ライアンこと吉備真備をモデルに、日中謀略外交バトルを描いた一大ポリティカル・アクション(?)絵巻、とお考えいただければ、当たらずとも遠からじ。というか、真備のあまりの聡明さを恐れた唐人が仕掛ける罠を、学識だけでなく、同じように遣唐使として唐に渡って殺された阿倍仲麻呂の霊(本当は真備の同時代人)のアドバイスに助けられ、あまつさえ鬼を操り、空を飛ぶ、不思議な力を使いながら切り抜ける活躍ぶりは、ほとんどファンタジーだ。

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2012.05.26(土)