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 コラムニストであり消しゴム版画家であり「史上最強のテレビウォッチャー」であったナンシー関さん(2002年没)。生前は、独特の観察眼による鋭いテレビ批評と著名人の似顔絵をユーモアたっぷりに彫った消しゴム版画で『週刊文春』や『CREA』など数多くの雑誌で才筆をふるいました。

 亡くなって23年が経つ今年5月、「ナンシー関」の名づけ親であるクリエイターで作家のいとうせいこうさんプロデュースで、ナンシーさんが眠る青森県青森市の浅虫温泉にてトークと音楽の祭典「あさ虫温泉フェス」が開催されることに。昨秋、浅虫温泉の旅館「椿館」を訪れたいとうさんが、旅館のすぐそばにナンシーさんの菩提寺があると知り、ナンシーさんに捧げる「フェス」を発案したそう。

 そんなわけで。いとうさんと、ナンシーさんの盟友でもある放送作家の町山広美さんが、ナンシーさんが暮らした部屋を訪れ、ナンシーさんの約5000点以上にも及ぶ消しゴム版画作品を管理する実妹・米田真里さんとともに、「ナンシー関とは?」を改めて振り返りました。(全3回最初から読む


とにかく欲のない感じがすごく面白かった

――ところで、いとうさんは最初にどこでナンシーさんと出会ったんですか?

いとう えのきどいちろうさんの紹介。えのきどさんが面白い人がいるからちょっと会ってほしいと。

 で、池袋の古い喫茶店に行って、別珍のソファに座ってさ。ナンシーがゴソゴソとカバンの中からなんか出してきて。見てみたら消しゴム版画。なんじゃこりゃって(笑)。とにかく、ナンシーの欲のない感じがすごく面白かったから、すぐに「じゃあちょっと仕事振りたいんだけど」って話になった。

町山 ナンシーさんは当時、えのきどさんのパートナー(現在の妻)と広告学校(注:当時『広告批評』のマドラ出版が主宰していた学校)で知り合って仲良くなって。それでナンシーさんの消しゴム版画(注:花登筐の小説に登場するような丁稚を描いたシリーズなど)を見せてもらったえのきどさんが「これはいろんな人に紹介したい」と。

いとう そうそう。「イラストレーターとして売り出してほしい」とえのきどさんが連れてきた。

2025.04.01(火)
文=辛島いづみ
撮影=平松市聖