スルメと白菜の静かなうま味が体を温める
スルメと白菜の静かなうま味は、ひたひたと寄せては返して体を温め、大徳寺納豆を混ぜた塩で食べるアオリイカとほし芋の天ぷらは、素朴な芋の甘みに目が細くなる。
揚げたてはんぺんは、丸いうま味と油のコクが心を沸かし、甘みの抑揚の効いたメバルの煮付けは、心をふわりと包み込む。
だし巻きは、卵の甘みを邪魔しないだしの味わいに、思いやりが滲む。
そして締めもどれを頼もうかとさんざん悩みながら、そばと同じ寸に切った大根に夜大根そばや、揚げたての巻エビを使った天むすに、お揚げに上品な甘みがそっと染み込んだいなり寿司。
すべての料理に、理りを図った仕事があり、すべての料理にてらいがない。
ああ、なぜこんな店が東京にないのだろうと、来るたびに思う名古屋の「花いち」の夜。
花いち
所在地 愛知県名古屋市西区児玉2-4−13
電話番号 052-524-2876
※要予約
マッキー牧元(まっきー・まきもと)
1955年東京出身。立教大学卒。(株)味の手帖 取締役編集顧問 タベアルキスト。立ち食いそばから割烹、フレンチからエスニック、スイーツから居酒屋まで、全国を飲み食べ歩く。「味の手帖」 「銀座百点」「料理王国」「東京カレンダー」「食楽」他で連載のほか、料理開発なども行う。著書に『東京 食のお作法』(文藝春秋)、『間違いだらけの鍋奉行』(講談社)、『ポテサラ酒場』(監修/辰巳出版)ほか。
Column
マッキー牧元の「いい旅には必ずうまいものあり」
立ち食いそばから割烹、フレンチからエスニック、スイーツから居酒屋まで、全国を飲み食べ歩く「タベアルキスト」のマッキー牧元さんが、旅の中で出会った美味をご紹介。ガイドブックには載っていない口コミ情報が満載です。
2018.04.30(月)
文・撮影=マッキー牧元