時代を経るほどに、存在感を増し
女たちに本質を伝えようとする天才
「みんな、私の着ているものを見て笑ったわ。でもそれが私の成功の鍵。みんなと同じ格好をしなかったから」。男の服を着たり、コルセットを外してメリヤスのような素材で動きやすい服を作ったり、スカートの裾を切って足を見せてしまったり、当時はやはり非常識だったかもしれないココ・シャネルの試み……でもそれらは今そっくり、“女の服”の原型となっている。まさに“モードの預言者”のような仕事をした人。
だからだろうか、没後半世紀近く経っても、まだ生きているように、女を啓蒙し続けている。少なくとも過去の人とは思えない。デザイナーである前に、本質の本質を知っていた哲学者だから。そういう人だから、いっときの流行ではなく永遠のスタイルを作れたのだ。それどころか今なお時が経つほどに、シャネルの提案の正しさをより生々しく思い知らされるのは、驚きでさえある。
そう感じるのは、ひょっとするとシャネル社が時代を見計らい、ゆっくりと、でも淀みなく、ココ・シャネル自身を丁寧にアーカイブするような香水を出すからではないかと思う。ココ。ココ・マドモアゼル。そして今秋、発表されたガブリエル シャネル。いずれも、シャネル自身を描く香り。だから香水が発売されるたびシャネルという人の底知れなさを思い知ることになるのだ。
2017.11.01(水)
文=齋藤 薫
撮影=釜谷洋史