【BLは創作の苦悩をも描く。】

 BLマンガ誌には、男子同士の恋愛に萌えが読み取れるなら、規格外の設定もアリという、わりと自由な気風があります。男子であれば、神様やケモミミ付きの人外も可。主人公が中年や老年という年齢でも、萌えアンテナが受信すれば「載せましょう!」という判断に結び付く。

 ただし弊害がないわけではない。明らかに萌えのためだけに取って付けた御都合主義的な設定も見かけるからです。逆に萌えと両立させるかたちで、じつは本題はそこか! とばかりに人生や日常の機微をすくい取って深い感動を呼び起こす作品もあります。そんな作品からBLに入門してみませんか?

官能小説家ってどんなお仕事?
代筆からはじまる恋もある

 丸木戸マキさんの『ポルノグラファー』は萌えと物語性を兼ね備えた作品です。ガタイがよくてお人好しな大学生の久住春彦は、自転車でメガネの小説家・木島をはねてしまう。右腕を骨折した木島は久住に、賠償金のかわりに腕が治るまで自分の小説を口述筆記してほしいと提案した。お金がない久住は渡りに船と承知するが、なんと上品な見た目に反して木島先生の描く作品はものすごくエロい官能小説だった。

 木島がしゃべるあられもない伏せ字言葉を書き写すうちに、久住は先生の夢まで見たりして、だんだん変な気分に陥ってしまう。しかも先生は仕事場を訪ねて来た編集者の城戸ともなにやら因縁があるようで気になる。これって先生が好きってことなの? そんな大学生らしい恋の悩みの陰で、木島の創作の才能は深刻な局面を迎えていた。中盤以降であっと驚くある物語上の仕掛けがあって唸らされる。そしてますますふたりから目が離せなくなるのでした。

『ポルノグラファー』(全1巻) 丸木戸マキ

大学生×30代の官能小説家という年も立場も違うふたりが出会う。絶望する小説家に救いは訪れるか? 著者の初単行本で、2014年に同人誌で描いた読み切り(本書の第1話部分)が目に留まり、商業誌連載となったという経緯。大型新人現れる!
祥伝社 650円
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福田里香 (ふくだりか)
お菓子研究家。CREAで「R先生のおやつ」も連載中。『まんがキッチン おかわり』(太田出版)と文庫版『まんがキッチン』(文春文庫)が好評発売中。

Column

BLマンガ基礎講座

BLはボーイズラブの略。ざっくり定義を述べると「主に女性の読者に向けて描かれた男同士の恋愛をテーマにした作品」。実は名作が満載のこのジャンル、食わず嫌いはもったいない!

2016.12.05(月)
文=福田里香

CREA 2016年12月号
※この記事のデータは雑誌発売時のものであり、現在では異なる場合があります。

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