【BLは職業マンガの宝庫である。】

 BLマンガには「男と男が恋をする」という物語上の縛りがあります。結末はハッピーエンドで、という暗黙の了解もありますが、バッドエンドも要相談で全面禁止ではない。ですから裏を返すと、男同士の恋というたったひとつの縛りさえちゃんとクリアできていれば、あとはどんな設定もやぶさかじゃない。むしろ縛りは少ないとも言えます。

 ジャンル初期には学生を主人公にした話が多かったのですが、BLマンガ読者の年齢層が広がるにつれ、主人公に働く成人男性を据える作品が増えてきました。そこで作家たちは職業選択の自由を行使し、自分の趣味でさまざまな仕事を持つ主人公を描き出しました。そう、BLは職業マンガの宝庫なんです。

仕事はつらいけど超楽しい!?

 数ある傑作の中でもおすすめはトウテムポールさんの『東京心中』シリーズです。大学を卒業した宮坂絢は、なんとなくテレビ制作会社に面接に行き、なりゆきでADとして採用される。そしてバラエティ番組班のディレクター矢野聖司の下につき、こき使われることに。7歳年上の矢野は根っからの映画好きで仕事に夢中。次第に宮坂は自分にはない熱を持つ矢野から目が離せなくなる。これって恋?……いやいや矢野さんは男だよ? オレには彼女がいるのに、と煩悶する宮坂の仔犬っぷりが絶妙にかわいい。

 ある日、矢野にテレビドラマの監督の仕事が舞い込んだ。宮坂が発した「オレが矢野さんの声 聞きのがすわけないじゃないですか」の声を契機に、宮坂は矢野に、矢野は映画に永遠の片思いという関係がにわかに変化を見せる。恋の行方も気になるけど映像業界の仕組みもわかって2倍楽しい!

『東京心中』シリーズ (既刊6巻) トウテムポール

舞台はテレビ制作会社。好きなモノを追いかけるつらさをわかっている人々の物語。大学出たての部下・宮坂が、映画バカのオジサン上司・矢野に惹かれていく過程を丁寧に描き、2014年度「このBLがやばい!」ランキング1位を堂々獲得。
茜新社 648円
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福田里香 (ふくだりか)
お菓子研究家。CREAで「R先生のおやつ」も連載中。『まんがキッチン おかわり』(太田出版)と文庫版『まんがキッチン』(文春文庫)が好評発売中。

Column

BLマンガ基礎講座

BLはボーイズラブの略。ざっくり定義を述べると「主に女性の読者に向けて描かれた男同士の恋愛をテーマにした作品」。実は名作が満載のこのジャンル、食わず嫌いはもったいない!

2016.10.04(火)
文=福田里香

CREA 2016年10月号
※この記事のデータは雑誌発売時のものであり、現在では異なる場合があります。

この記事の掲載号

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