映画作りというより、エンタメを作った最新作
『アズミ・ハルコは行方不明』
――ちなみに、自身の転機となった作品は?
すべての作品が転機になっていると思うんですが、『自分の事ばかりで情けなくなるよ』ですね。公開当時、これが映画としてどうか? という意見もあったんですけど、自分のやりたいことをやり通して、信じた人と映画にしたんです。ずっと童貞の心理しか描けないと思っていたんですが、自分ができることって、自分が見たことのある景色、自分が持っている引き出し以外にもあるんじゃないか? と思えて。つまり、この映画を撮ったことで、それまで頭でっかちだった自分が楽になったんです。
――ミュージシャンや新人・若手俳優と組む作品が多いですが、その醍醐味を教えてください。
あまりお芝居したことがない、技術が論理化されてない人と一緒にやるのが好きなんです。何度も同じことができないし、巧くやろうとしないから、こっちにはまったく読めないんですよ。理論をブッ壊してくれると、ワクワクしますね(笑)。そういう考えになったのも、『自分の事ばかりで情けなくなるよ』以降です。
――蒼井優と高畑充希の共演も話題の最新監督作『アズミ・ハルコは行方不明』ですが、山内マリコの原作から時系列を壊した脚本が印象的です。
「いろいろイヤなことに遭った主人公が行方不明になる」という話を邦画でフツウにやったら、既視感がある気がして。それでどういう立ち位置にしようとなったとき、行方不明ということを理屈で捉えるのではなく、感覚的に観てほしいという気持ちになったんです。それで原作をそのまま映像化するのでなく、時系列をバラバラにするアイデアが生まれました。各エピソードを短冊にして、並べ替えていきながら全体像を作っていったので、映画を作る感じじゃなくて、なんかエンターテイメントの生き物を育てている感じでした。
2016.11.25(金)
文=くれい響
撮影=深野未季