『国宝』は“鏡”の物語…大作に見る、「男たちの絆」の現在

 2025年を象徴するもう一つの「舞う男」の物語といえば、映画『国宝』があります。

 それぞれの作品における俳優たちの役づくりや肉体づくり、芸術表現に対する追求のすばらしさという共通点は、もはや言わずもがな。

 吉沢亮と横浜流星が演じる喜久雄と俊介の関係性と、Netflix映画『10DANCE』の杉木・鈴木の関係性を比較すると、今のエンタメが描こうとしている「男たちの絆」の多様性が見えてきます。

 『国宝』が、相手の中に理想を見る「鏡合わせの、孤独な求道者」の関係だとするならば、『10DANCE』の二人は、相手という劇薬を飲み込み、自分を拡張していく「共犯者」の関係です。

 『国宝』が、伝統という高い壁の前で、一人が立てば一人が退かねばならない「椅子取りゲーム」のような、残酷で美しい垂直の物語だとするならば、『10DANCE』は、二人でなければ到達できない場所を目指す水平の物語と捉えることができるかもしれません。

 『国宝』の踊りが「静」の狂気を孕んでいるのに対し、Netflix映画『10DANCE』の踊りは、汗と呼吸が画面から飛び散るような「動」の官能に満ちている。2025年の観客は、この正反対の熱源に挟み撃ちにされたことになります。

 『国宝』がこれだけメガヒットしたのであれば、それと同数の人が『10DANCE』も観るべきなのです!

BL作品では「駒」にされがちな女性たちだが…

 本作が単なる「男同士の閉じた世界」に終始しないのは、女性キャラクターたちの描かれ方が極めて秀逸だからです。鈴木のパートナー・アキ(土居志央梨)と、杉木のパートナー・房子(石井杏奈)もとても魅力的です。

 多くのBL作品において、女性は「物語を動かすための駒」や「恋路を邪魔する障壁」として扱われ、その内面は隠されがちですが、本作の彼女たちは違います。彼女たち自身がフロアの主役であり、自らの技術に絶対的なプライドを持つプロフェッショナルだという点がしっかり伝わってくるのです。

 彼女たちが男たちの関係に「嫉妬」するのではなく、プロとして、男たちの「ダンスの質の変容」を感じ取ることが強調されている点もポイント。パートナーが自分以外の男と組むことで、どれほど進化し、あるいは壊れていくのか。それを冷徹に見極め、時には男たちを凌駕するパフォーマンスを見せてくる。

 彼女たちが「背景」に退かず、一人のアスリートとしてそこに君臨しているからこそ、杉木と鈴木の結びつきは、甘ったるいファンタジーではない、命懸けの「表現者の闘争」としての強度を獲得しています。

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