いろんな映画、いろんな撮り方があっていい

“まなざし”、そして“まなざされるもの”。

 これまで金子が映画の中で映し出してきたものは新作『外と』でも明確に映し出されている。生物や無生物のありようそのもの。その存在が今そこにあるということ。そのものが孕む過去、そして未来。

「こう見てほしいとか、こう感じてほしいというのはない。“何でもない”に込めているのは観る人に放任したいということ。映画監督というより私は視線人としてまなざしているだけ」(金子さん)

 人の数だけ、いろんな映画、いろんな撮り方があっていい。OKプロジェクトは、金子と二井が実践する、新しい映画の作り方だ。新作は金子の言葉通り、うららかな日に公園を散歩したかのような“何でもない”余韻に満ちていた。

「『健やかに楽しいものづくり』が私のテーマ。プロデュ―サーとして、いいものを風通しのいい環境でつくることができるようにチームを作るのが私の仕事だと思っています。そうすれば、スタッフ全員がいい作品に携われたなって思えるだろうし、私も金子さんも幸せになれる。そうしてみんなのやりたいことも成し遂げられる状態こそがクリエイティブの理想像だと思います」(二井さん)

 新作『外と』の上映を控える金子、そしてOKプロジェクト。最初のゴールに設定した『観測者たち』に関しても、金子がクリエイター等育成プログラム フィルム・フロンティア 海外渡航プログラムの第二期の選抜者に選ばれたこともあり、無事に資金を調達。2026年度内には『観測者たち』のパイロット版の撮影とその展開を予定している。

 OKプロジェクトは無事に転がり始めた一方で、『外と』は1日限りの上映(完売のため追加上映を検討中)。そしてフィルム・フロンティアの助成金もパイロット版の製作に活用する予定だ。映画監督として、当面の収入は見込めないのが現実。映画作りに勤しむかたわら、金子は介助の仕事で生計を立てているのだという。

「映画監督だけで生活をしていくって本当に難しい。名の知れた監督でもバイトしながら作品を作っている実情があるんです。文化を大事にって国は言うけど、実際はフリーランスや作り手を支える仕組みが全然ない。私は、執筆業などもしていますが、介助の仕事を続けているおかげで何とかやっていけています。東京都は介助職への手当も手厚いですし、時間の都合もつきやすいので結構若いクリエイターの人も多いんですよ。

 介助の仕事のことだけでなく、OKプロジェクトの経験もシェアしたい。助成金の申請、ラボの活用、市場原理から自由になってどう映画を作るか、どう業界を自由にしていくか。でも私たちも知らないことだらけなので、みんなで助け合いたい。興味がある人は是非声かけて欲しいですね。映画の撮り方がもっと自由になって、いろんな作品ができてくれたら私自身もうれしい」(金子さん)

 最後にOKプロジェクトの今後の展望について尋ねた。

「それはもちろん、“健やかに楽しく”他の誰でもないOKプロジェクトのやり方でこれからも映画を撮り続けること。この先、どんなに長いエンドロールの映画を撮ることになっても、自分が監督なのにそこに書いてある人が誰なのかわかない状態は嫌。関わる人すべてとチームで映画を撮っていきたいです」(金子さん)

「その上で、みんなで映画作りをしていくためにしっかり稼ぐのも目標です。ピッチマーケット(製作資金調達のための映画のプレゼン市場)にも『観測者たち』を持って挑戦する予定なんです。二人で頑張って、二人とも幸せになる。それが野望です!」(二井さん)

“いいもの作り”を志向する二人が紡ぐ映画のかたち。金子と二井、そしてそれを取り巻く多くの人たち、さらにはすべてのモノ作りを愛する“これからの人たち”を編み込んで、OKプロジェクトは続いていくのだろう。

OKプロジェクトとは

金子由里奈と二井梓緒が2024年に立ち上げたコレクティブ。仲間を巻き込みながら制作を行う姿勢から、「編み物みたいな映画作り」と謳っている。 2025年6月、俳優・加賀田怜とともに三鷹SCOOLで上演した「映画『観測者たち』のための演劇『観測者たち』」、同年10月には俳優・田中陸、音楽家・日高理樹と「映画『観測者たち』のための音楽劇『観測者たち』」を創作。いずれも満席となり、映画企画のプロセスを可視化し、作品として提示するという新しい試みとして注目を集めた。こうした実践から得た上演収入や支援金をもとに、今回の新作短編『外と』の制作に着手。演劇から音楽劇へ、そしてスクリーンへ。OKプロジェクトが紡いできた“編み物のような実践”は、年の瀬のポレポレ東中野でひとつの結実を迎える。
公式サイト:https://okprojectfilm.tumblr.com

金子由里奈 Kaneko Yurina(かねこ・ゆりな)

東京生まれ。立命館大学映像学部卒業。2018年、『21世紀の女の子』で公募枠に選出され、短編『projection』を監督。翌年、短編映画『散歩する植物』が、ぴあフィルムフェスティバル2019に入選する。同年、死者と声をテーマにした短編『眠る虫』を自主配給。2023年、『ぬいぐるみとしゃべる人はやさしい』で長編デビュー。同作は国内の新人賞を複数受賞し、海外映画祭でも上映された。幽霊、石、植物など非人間的な存在をモチーフに、映画制作にとどまらず、劇作、音楽、文筆など幅広い分野で活動している。

二井梓緒 Futai Shiwo(ふたい・しを)

1995 年東京都出身。自由学園最高学部卒業後、学習院大学大学院 身体表象文化学修士課程修了。Spoon.所属。PMとして映画『PERFECT DAYS』(2023)や広告作品に参加。現在はプロデューサーとして、広告、MV 、映画の制作を進行中。プロデュースした作品として『洗浄』(2024)第46回クレルモン=フェラン国際短編映画祭の国際コンペティション部門に選出。『幽霊の日記』(2025)第55回ロッテルダム国際映画祭のShort & Mid-length部門に選出。他、マンガワン10周年記念実写PV「マンガってなんだ?」など。他、フリーで映画批評とパンフレット構成も担当。