12月28日(日)、金子由里奈による最新短編作品『外と』がポレポレ東中野で公開される。『ぬいぐるみとしゃべる人はやさしい』からおよそ2年半。金子由里奈の新たな1歩は、20分弱の短編映画、そして1日のみの上映という形で踏み出された。18日に販売開始されたこの上映はなんと発売初日に完売。追加上映を検討しているという。

 これまでの経歴を考えると、小さいように思える一歩。しかしその一歩は金子自身にとって大きなものであった。「OKプロジェクト」という新しい映画製作のありかたを模索するコレクティブ(共通の目的のためのグループのこと)を立ち上げ、それが形となった新作『外と』。金子は「監督とプロデューサーが対等な立場で携わる。自分たちに合った制作のありようが、ようやく結実したんです」と胸を張る。新作上映に向けての想い、そしてこの2年半の金子由里奈について話を聞いた。


次回作のことを聞かれることが憂鬱だった

「12月28日、ポレポレ東中野で新作を上映することになりました」

 そう話す金子由里奈の声は昂っていた。そして隣にいるプロデュ―サーの二井梓緒と顔を見合わせ、一緒ににっこりと笑った。新作『外と』は、金子と二井の二人によるOKプロジェクトというユニットの映画初作品でもあったのだ。

 立命館大学在学中に『21世紀の女の子』(18)に唯一の一般公募として参加、その後の初長編『眠る虫』(19)が話題になり、2023年には商業映画第一作目となる『ぬいぐるみとしゃべる人はやさしい』(以下、ぬいしゃべ)が公開。本作は第33回日本映画批評家大賞の新人監督賞に選ばれている。これ以上ない、順風満帆に見えた金子だが、その裏で本人は苦悩していた。

「映画を撮ること以外のことに無頓着過ぎたんです。いろいろな言葉に引っ張られてしまったし、自分のメンタルも不安定になって、次の一歩が踏み出せなくなってしまった。映画祭の授賞式などで次回作のことを聞かれる度に憂鬱を覚える日々でした」(金子さん)

 ぬいしゃべ上映後、金子の元にはさまざまな仕事の依頼が舞い込んだ。それとともに、さまざまな“助言”も向けられるように。曰く「映画祭には3作目までしか新人監督として呼ばれないから、2本目はよく考えて撮ったほうがいいよ」、「次は海外で結果を出さないと厳しいかもしれない、頑張って」。

 そうした言葉を振り払い、目の前の仕事に集中しようとしても、これまでとは勝手が違った。

「自分が信じていた自分の作家性が、実はそんなに求められていなかったというか。『ぬいしゃべを撮った繊細な感性を持った監督』というイメージが先行していたり、自分の年齢やジェンダーで判断されることもありました。実務的なところでもこれまでと違う環境に戸惑うことが多くて。一度立ち止まって、監督というものから距離をとってみたんです」(金子さん)

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