新しい日本語の音楽劇をやりたい

――そうした経験を経た今、額田さんは「新しい日本語の音楽劇」をやりたい、とおっしゃっています。音楽劇というとオペラとかミュージカルを連想する人も多いと思うんですが、それともだいぶ、いや、そうとう違いますよね。

 そうですね、能とか狂言も音楽劇だけど、それとも違う。まず今回、自分たちの今の言葉使いとか言語表現をどうやったら音楽的に見せられるか、ということを考えました。日本語ラップなんかもそういう試みだと思うんですけど、それを演劇というフォーマットでやりたいなと。自分たちが日常的に使っている言葉を音楽的に内包する方法はなんだろう、ということを考えていて。今こうやってしゃべってる言葉にも、音程がついていたりしますよね。それを生演奏の力を借りて、演劇作品にしたいなと思って。

――ギター、ベース、ドラムが舞台上にいて、生演奏が入りますね。これはどういう効果を狙ってのことですか?

 わかりやすいところで言うと、ドラムがうるさかったら声が大きくなるとか、リズムがゆっくりだったら俳優もゆっくり喋らなきゃいけないとか、ありますよね。要するに俳優とバンドが相互に影響を受けることによって、身体の使い方や台詞の言い方も変わってくる。もちろん相互作用とは逆に、ずらしていくってこともあるだろうし。そういうふうに作品が広がっていくと思います。今はまだ音がない状態で稽古をやっているんですけど、バンドが入るとパフォーマンスがだいぶ変わるかなと。バンドが入ってから3週間くらいがっつり稽古するので、より効果的なやり方を話し合って決めていくことになるかと思います。

――ギターの細井徳太郎さんは、即興演奏にも強い人ですよね。

 そこは大事ですね。バンド側もかなり細かく台詞を把握しておく必要があるし、その台詞に対してどういう音を当てるかっていう、かなり繊細な作業が必要になるので。基本、やっぱり即興に強い人じゃないと、リアルタイムでのやり取りが難しいと思うんです。

――バンドの演奏が入るところに、脚本では「雲を掴まえるような演奏」みたいな指示もあります。こういうのもこなせる人たちなんでしょうね。譜面はあるんですか?

 ないところもありますけど、ないところはないなりの作曲をしてると言いますか。ある程度お任せの部分と譜面のある部分と両方ありますね。

――なるほど。しかし、例えば劇団四季のミュージカルは知っているけど……という人にも見てもらいたいですね。驚くかもしれないけれど。

 びっくりするだろうけど、でも割とすんなり馴染むんじゃないかなって。そんなに難しくはないと思うんですよね。そこがポイントかもしれないです。生演奏が入っているからダイナミズムもあるし。

――日本語の新しい音楽劇、楽しみです。

 オペラとかミュージカルが一つの音楽劇の基準になっているのは、それはそれでいいものだと思います。でも、僕はそうじゃないものを作りたい。ミュージカルなどをイメージして観ると全然違うかもしれないけど、実際に観たらこれは確かにめちゃめちゃ音楽劇だ! って思ってもらえると思います。まだ名前がついていないだけで、音楽劇の新しい形だと感じるはず。決して難解なものではなく、感覚として音楽、そして物語を感じる。それがヌトミックの考える“新しい音楽劇”です。是非、一度体験してみてほしいですね。

ヌトミック
『彼方の島たちの話』

日時 2025年11月22日(土)~11月30日(日)
会場 世田谷パブリックシアター シアタートラム
所在地 東京都世田谷区太子堂4丁目1番地1号
作・演出・音楽 額田大志
出演 稲継美保、片桐はいり、金沢青児、東野良平、長沼航(ヌトミック)、原田つむぎ(ヌトミック)
ギター 細井徳太郎
ベース 石垣陽菜
ドラム 渡健人
公演公式サイト https://nuthmique.com/post/789828166487293952/kanata
※チケット詳細はこちら https://setagaya-pt.jp/stage/29249/

額田大志(ぬかた・まさし)

1992年東京都出身。東京藝術大学在学中にコンテンポラリーポップバンド『東京塩麴』結成。ミニマルミュージックを現代的に解釈したサウンドで注目を集める。2016年に演劇カンパニー『ヌトミック』を結成。『それからの街』で第16回AAF戯曲賞大賞、古典戯曲の演出でこまばアゴラ演出家コンクール2018最優秀演出家賞を受賞。2025年に第33回読売演劇大賞上半期ベスト5に演出家としてノミネート。
X @M_Nukata