役、時間を自在に行き来できる脚本に
――脚本を書くプロセスは変わりましたか?
今年ぐらいからプロットのようなものを書くようになりました。ただ、その通りにはいかないことが多いので、役のバックグラウンドと大まかな流れを決めてから執筆に入ります。あとは、どういう文体、語り方を使うかを発見するのに時間がかかりますね。
――時間軸がリニア(=直線的)じゃない作品も多いですね。今回の『彼方の島たちの話』も、今と15年前と1万年前という時間軸があって、それらが交錯してゆく。現在と過去が行ったり来たりしますね。
過去でも未来でもいいんですけど、時制を瞬時に切り替えることで「実はあの時そう思ってませんでした」みたいなことが言えてしまうのがいいかなと思ったんですよね。複数の世界線があるというか、マルチバース的というか、自分の主体がどんどん分散されていく感じに興味があって。あと、演劇ってひとりの俳優が複数の役を演じたり、自在に時間軸を行き来できる。それは活かしていこうと思ってますね。
――今回、記憶とか思い出っていうものが、一つのモチーフとしてあると思うんです。以前、柴崎友香さんの『ビリジアン』を愛読書に挙げられて、公演後のアフタートークでも彼女と話されていますよね。彼女の新刊『帰れない探偵』では、娘が原因不明死んでしまったお母さんが探偵を雇って、彼女が生きていた頃の様子を友人から聞いてもらうくだりがあるんです。その証言がたくさん集まると、まるで彼女が今もそこにいるような錯覚に陥る。記憶の中にいるうちは生き続けている、とも言える。
ああ、なるほど。それはなんとなくわかりますね。
演劇と文学は似たものだと思う
――あと、作品に対して能動的にアクセスして欲しい、というのが額田さんにはあるんじゃないでしょうか?
僕は読書が好きなんですけど、演劇を文学と似たものだと思って捉えている節がありますね。読書体験って、文字を読むことと頭の中でなにかを考えることが、セットになっていると思っていて。演劇もそういうものであってほしいと思っています。ただそこで起きていることを見るだけじゃない演劇が、もっとあっていいかなって。舞台上で起きていることが自分の頭の中でも展開したり、考えさせられるというか。今回、思い出をつないでいくみたいなシーンが多いですけど、関係なさそうなものが関係づけられたりして、それによって物語が生まれてくるみたいなやり方を試しています。
――ここ最近は劇場での公演が続いていますが、野外劇も多いですよね。チケットが即完売で見られなかったんですが、2024年の『しらふの地先へ』は特にユニークな公演だったとか。
2020年の東京オリンピックで使われた水上競技場が埋立地になっていまして、そこが 2キロ直線の道なんですよ。カヌーやボートで使われる水上競技場の側道を歩きながら演劇をやりました。そもそも車じゃないと埋立地に行けないので、東京テレポート駅で集合してバスをチャーターして移動して。みんなで移動しながらバスの車内で劇をやって。埋立地に着いたら2キロお客さんと一緒に歩くんですけど、演者が頑張って先回りして色々なアイテムを用意する。最終地点の島まで 2時間半ぐらいかかったのかな。それを 7回ぐらいやった気がしますね。内容は一緒なんですけど、状況はその時々で異なってしまうので、演者とお客さんの物理的な距離が離れていったりもして、絶対に見えない会話のシーンとかが生まれたりする。
