台詞と短歌の往復書簡で戯曲を綴る作品や制作プロセスを公開しながら1週間で短編作品をつくるプログラムなど、劇団ロロは演劇をより多くの人々に届けるべくさまざまな取り組みに挑戦してきた。9月25日(木)から渋谷ユーロライブで上演される新作公演『まれな人』では、事前にポッドキャストを配信することで劇場に足を運べない人にも作品を届けようとしている。公演に向けて準備を進める劇作家・演出家の三浦直之のもとを訪れ、制作に対する思いの変化、その先に広がる景色を明らかにする。


劇場へ来れない人にも作品を届けたい

──9月25日から始まる新作公演『まれな人』では、「Podcast演劇」と題し、公演に先立って音声ドラマをポッドキャストで配信されています。なぜ今回、ポッドキャストを組み合わせた企画を実施されることになったんですか?

 今年、振付家・ダンサーの森山開次さんが手掛ける作品『TRAIN TRAIN TRAIN』の脚本を書くことになったんですが、この作品には障がいをもった方々が参加されることもあって、改めて劇場にアクセスしない・できない人のことをもっと考えなければいけないと思うようになったんです。基本的にいまの演劇は公演を行ってから映像配信を行う順番をとっていますが、近年は作品の制作過程への注目も高まっていますし、事前に配信された物語を具体化していくことで作品をつくるようなプロセスを設計できないか考えるなかで、今回のポッドキャスト演劇という枠組みを思いつきました。

──今回配信されているポッドキャストは、公演前に観ておくようなものなんでしょうか。

 試行錯誤中ではあるんですが、基本的にはポッドキャストを聴いてから公演を観てもいいし、聴かないで観てもいいし、聴くだけで観なくてもいいと思っています。育児中で出かけづらい人もいるし、病室にいて外出すらままならない人もたくさんいる。そんな方々にとって演劇ってかなりハードルが高いものだし、もっと多くの人にロロの作品を届けていくうえでも、ポッドキャスト単体でも楽しめるものを配信していくつもりです。

──ポッドキャストの内容は本編ともつながっているんですか?

 今回の作品には電話を通じて会話するシーンが何度も出てくるので、電話のシーンを抜粋しながらポッドキャストとして配信していくつもりです。なので、実際に上演される舞台のなかでも、同じシーンが登場することになりますね。公演が始まるまでに5〜6本公開していく予定で、ポッドキャストにはすべての登場人物が出てくることになると思います。

演劇は他者の秘密へ触れるもの

──今回は初めてロロの作品に出演される方も多いですね。普段はお笑い芸人として活動されている人間横丁のおふたりが出演されるのも意外でした。

 ロロから出演するのは亀島(一徳)くんと(篠崎)大悟のふたりで、ほかはすべて初めてご一緒する方々ですね。実は高野(ゆらこ)さんと長井(健一)さんは、「いつ高」シリーズを再演する際に行ったオーディションに参加してくださっていたんです。結果的に「いつ高」にはべつの方が出演することになりましたが、ふたりともすごく素敵な俳優だったのでご一緒したくて、今回声をかけました。

 人間横丁のおふたりは、去年上演した『飽きてから』に鈴木ジェロニモさんと上坂あゆみさんが参加してくださったのがきっかけで作品を観に来てくれて。ふたりの空気感がとてもよかったので、一緒に作品をつくってみたくなったんです。

 いまはまだ本読みの段階ではありますが、すでに面白いですね。今回の作品は復讐劇のような内容なんですが、長井さんや人間横丁のふたりがいると血なまぐさい復讐劇というより明るさや柔らかさが出てくるし、逆に高野さんは本気で復讐しようと思っているような説得力があって、それぞれのよさが出ているのが面白いですね。

──あらすじでも「まれな人たちが巻き起こす、たのしい復讐劇」と書かれていますね。どんなストーリーの作品になるんでしょうか。

 ポッドキャストを配信することが決まっていたので、なにかキャッチーなものがあった方が聴きやすいかなと考えていたときに、ふと「編集者が作家にラリアットしたがっている」というシーンが思い浮かんだんですよね。そこから物語を書いていったのですが、全体としてはいわゆる「復讐劇」というより、作家の麦川(篠崎大悟)と編集者の郡内(高野ゆらこ)が、麦川の中学時代の同級生、図雲(亀島一徳)を探すことで物語が進行していきます。

──図雲という登場人物を探していくなかで、ポッドキャストでも描かれているような出来事が起きていくわけですね。

 人探しというテーマに興味があったんですよね。それはこの数年くらい私立探偵小説をよく読んでいたからでもあります。演劇ってコミュニケーションを通して他者の秘密に触れるものだと思うんですが、私立探偵も同じようなことをやっていると思っていて。たとえば警察だったら誰かの秘密を調べていく妥当性があるけど、私立探偵って何者でもない存在が見ず知らずの人に会いに行って、その人の秘密に触れようとしている。ある種のコミュニケーションの象徴として、私立探偵には演劇と通じるものがあるんじゃないかと考えるようになったんです。

2025.09.23(火)
文・写真=石神俊大