この記事の連載

 ロロの新作公演「劇と短歌『飽きてから』」に参加している歌人の上坂あゆ美さんと芸人の鈴木ジェロニモさん。脚本・演出の三浦直之さんが俳優ではないこの2人を作品に呼んだ理由とは? そして3人それぞれ違った理由で感じている「人間になりたい」という願いについて語っていただきました。


他ジャンルの人が創作の場にいるメリット

──三浦さんはこれまでも、ミュージシャンの曽我部恵一さんやアニメーション作家のひらのりょうさんなど、他ジャンルの方をキャスティングすることが少なくないですよね。他ジャンルの方が作品に出演することのよさはどこにありますか?

三浦 稽古場がすごく楽しいというのがあります。演劇をずっとやっている人だけだと、その中でできあがったルールを当たり前だと思ってしまっているんです。そこに演劇の経験のない方が入ることで、無意識でやっていたことをもう一度見つめ直せる。本当にちょっとしたことに反応したり感動したりしてくれることも、つくっていてすごく嬉しいんですよ。

──それはたとえば、どんなことですか?

三浦 ごく初歩的な話でいうと、ロロのメンバーはいちばん最初の稽古から台本を手放してるんです。それを上坂さんやジェロニモさんは「すごい!」と思ってくれる。僕らにとっては普通になってしまっているけど、言われてみればたしかにこれってすごいことだぞ、と。

──その発見は、今作のテーマである「飽きる」と直結していますね。当然のこととしてしまっていることが、他の人から見たらすごく新鮮に感じられるという。

三浦 そう。と同時に、次に俳優たちが台本を手放して稽古している姿を見て、俺は今さら15年いっしょにやってきた仲間に「すごいね!」と言えるのか、と考えます。でも、唐突でも言えるようになりたいなと。

 僕の渡した脚本を読んだとき、上坂さんもジェロニモさんも「面白いです!」と感想を伝えてくれた。それってやっぱりとても嬉しいんですよ。だから、僕もメンバーに対して照れている場合じゃない、と思いますね。

──他ジャンルのキャストは、新鮮な風を入れてくれる存在というわけですね。

三浦 もうひとつ、上坂さんと最初にお話したとき、「短歌には純粋読者がとても少ない」という話をされていて。要は、短歌をつくっている人が歌集を読んでいると。演劇にもそういうところがあって、演劇の観客は、演劇をやっている人が多いと言われている。僕はそれは、別にいいんですよ。そもそも、みんな生きている以上演劇をやっていると思っているから。むしろそれがもっと広まって、演る人と観る人が混ざったらいいなと思う。

 一方で、演劇を観る人が閉じていくのはすごくもったいない。だから、今回だったら「ふだんは演劇を観ないけど短歌は好きだから観てみよう」とか、この作品を観て短歌やお笑いを好きになるとか、そういう客席をつくりたいと常に思っているんです。

──ロロの作品にはマンガや映画などの固有名詞がたくさん出てくることがあって、高校演劇を想定した作品である『いつ高』シリーズなどでは、その解説が配布されたりもしていますが、それも、さまざまなジャンルのカルチャーが混ざっていく感覚がありますよね。

三浦 そうですね。僕、10代の頃は小説を読んで興奮して、その中に映画のタイトルが出てくると「なんだろう」とその映画を観て、という形でいろんなものを知っていった経験があるから。ロロだけで完結せず、次のなにかの手がかりになってほしいというのはいつも思っています。

──今回、Summer Eyeさんが音楽を担当されるのもそういった広がりのひとつですね。

三浦 もともと夏目(知幸)さんとは友人で、いつか一緒にやりたいと思っていて。Summer Eyeの「三九」という曲に今作の感覚に近いものを感じたんですよ。シャムキャッツを解散していろんなことがあってこの曲にたどり着いているんだろうなと思ったし、そんな夏目さんにこの作品を彩ってもらうのはすごくいいんじゃないかなと。

 それと、自分の言葉じゃないものが作品に混ざっていくことに最近すごく興味があって。だから上坂さんと一緒につくりたいと思ったし、ミュージシャンの方の言葉が作品に入り込むのはすごく面白いなと思って。

──歌といえば、作中にはジェロニモさんが歌うシーンもありますよね。

三浦 上坂さんからずっと聞いていて。ジェロニモさんが歌がうまいと。

上坂 ジェロニモさんが歌うシーンを絶対に入れてくださいってお願いしたんです。

ジェロニモ 歌うシーンがあると聞いたとき、「やったー!」と思ったんですが、その場では「あ、全然いいですよ、歌います」という感じで振る舞いました(笑)。

2024.08.23(金)
文=釣木文恵
撮影=佐藤 亘