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それぞれの「人間になりたい」部分

三浦 でも、さっき上坂さんはロロの作品にいないと言ったけど、僕の書く作品に「実際にいそうな人」っているのかな。僕はずっとフィクションに浸って生きてきたから、20代前半くらいまで、フィクションの方が現実のような感覚でいたんです。たとえば『いつ高』シリーズでは青春を描いたけど、別に僕はあんな青春を過ごしたことはない。でもどこかでこういう青春があってほしい、そう思うとちょっと元気出るかも、という気持ちで書いてきた。

 ただ、30代になってきてからもっと人間を書いてみたい、「俺も人間になりたい」という気持ちが出てきたんですよね。それもあって、上坂さんの歌集に感動したんだと思う。そういう意味でも、今回一緒にやれてすごい嬉しい。

ジェロニモ 三浦さんのおっしゃる「早く人間になりたい」という気持ちは、実はこの3人に共通することなんですよ。

上坂 ジェロニモさんとその話、しましたよね。深夜2時まで高円寺で「人間になりたい」って話した。

ジェロニモ 2人ともお酒が飲めないから、トニックウォーター飲みながら。

上坂 その「人間になりたさ」の欠けている部分が3人とも多分違うんです。でも言葉にすると同じ「人間になりたい」。

──まったく違う形で、それぞれ人間になりたい3人。

上坂 そんな気はします。

三浦 うん。

ジェロニモ 僕は、石とか岩とか木とかの方が自分の根本にすごく近い気がして。感情が沸騰して、その沸騰に従って肉体が動く、みたいなことがあまりないんです。だから、僕はそういうものを外に求めるしかない。風が吹いて葉っぱが揺れるとかのほうが、自分の肉体の動きに近いんですよ。でも、感情が先にくるほうが人間的とされることが多い気がしていて。感情の沸騰に従って肉体が動く状態に早くなりたい。人間になりたい。

 ……感情に関していうと、今回稽古をやりながら、「飽きる」という行為も感情表現の1つなんだな、とは思いましたね。無感情ではなく、飽きるという感情があるということなんだな、と。

──なるほど。上坂さんはどんな「人間になりたい」ですか?

上坂 私が抱える問題は、人の気持ちが察せないという部分の「人間になりたい」です。空気が読めない、察せない、いらんこと言うとか、そういう系の。

──三浦さんは、先ほどおっしゃったフィクションに没頭してしまうからこそ、現実を見る「人間になりたい」ですね。

三浦 以前、カウンセラーの方に「三浦さんはユートピア願望が強いですね」と言われて、「それだ!」となりました。

上坂 いい言葉。

三浦 「頭の中ばっかり観てないで、いま目の前を見ろよ!」と自分に対してすごく思います。

──でも、徹底して頭の中を見なければ描けなかったこともあったでしょうし、今回はご自分と違うタイプの上坂さんと共作したことで、フィクションと現実がブレンドされたものが見られそうな気もします。

三浦 そうですね。自分がずっと描いてきたフィクションと、現実との塩梅をずっと探っていますし、『飽きてから』にはそれが究極に反映されていると思います。

三浦直之(みうら・なおゆき)

宮城県出身。劇作家・演出家。2009年、主宰としてロロを旗揚げ。「家族」や「恋人」など既存の関係性を問い直し、異質な存在の「ボーイ・ミーツ・ガール=出会い」を描く作品をつくり続けている。ドラマ脚本提供、MV監督、ワークショップ講師など演劇の枠にとらわれず幅広く活動。2019年脚本を担当したNHKよるドラ『腐女子、うっかりゲイに告(コク)る。』で第16回コンフィデンスアワード・ドラマ賞脚本賞を受賞。
X:@miuranaoyuki

上坂あゆ美(うえさか・あゆみ)

1991年、静岡県出身。2017年から短歌をつくり始める。2022年2月に第一歌集『老人ホームで死ぬほどモテたい』(書肆侃侃房)を刊行。「小説推理」「web TRIPPER」にてエッセイを連載中。銭湯、漫画、ファミレスが好き。
X:@aymusk

鈴木ジェロニモ(すずき・じぇろにも)

1994年、栃木県出身。R-1グランプリ2023の準決勝に進出するなど、人力舎所属のピン芸人として活動する一方、歌人として数多くの文芸誌に作品を発表している。第4回・第5回笹井宏之賞最終選考。
X:@suzukigeno

劇と短歌『飽きてから』

公演日程 8/23(金)~9/1(日)
会場 渋谷・ユーロライブ(東京都渋谷区円山町1-5 KINOHAUS 2F)
原案 三浦直之、上坂あゆ美
脚本・演出 三浦直之
短歌 上坂あゆ美
音楽 Summer Eye
出演 亀島一徳、望月綾乃、森本華(以上ロロ)、上坂あゆ美、鈴木ジェロニモ
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2024.08.23(金)
文=釣木文恵
撮影=佐藤 亘