主人公なのに不気味な久乃

一穂: 『激しく煌めく短い命』を久乃の一人称で書くというのは、最初から決めていましたか? 読者としては綸の気持ちも知りたいし、作者としても綸の視点を入れられたら楽な部分もありそうと思ったのですが。

綿矢: 『光のとこにいてね』みたいに視点を切り替えれば、ふたりの気持ちがわかりやすいですよね。でも、そもそも綸の気持ちを書くという発想自体がなくて……。

一穂: 綸から見た久乃って、時々すごく不気味に見えるかもしれませんね。美容院をしつこく勧めたり……。

綿矢: ちょっとストーカーみたいですよね(笑)。久乃は不気味なところがたくさんある子なんで、それを綸が見抜いている描写とか書いたら面白かったかも。

一穂: 私の中の綸のイメージは、“人の言ったことをそのまま受け取る子”なんです。だから東京で再会したときも、まさか久乃がまだ自分のことを好きだとは思っていなかったのでは?

綿矢: 綸は鈍いところがあるので、久乃の気持ちにはまったく気づいていなかったと思います。むしろケンカ別れした記憶の方が強くて、仲が悪いままだと思っていたかもしれません。

一穂: 顔に傷をつけちゃったし、向こうがずっと怒っているんじゃないかって。ちなみに再会の場面で、綸が久乃のことを少しディスりますが、内心では大人になった久乃をどう見ていたと思いますか?

綿矢: 綸の中では、中学時代の久乃は少し暗いけど真面目で素直な子、というイメージだったと思います。でも再会してからは、生活が荒んでいたり、雰囲気が暗くなっていたりするのをすぐに見抜いて、警戒していたのかもしれません。「何を考えているか分からないやつ」に見えたんじゃないかな。そういうすれ違いを想像しながら読むのも面白いですよね。ただ綸の視点を書いてしまうと、彼女が久乃に隠していたことがバレてしまいますし……。

一穂: 小説を書くのって本当に難しいですね。

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