◆双柿舎(そうししゃ)

双柿舎の本館(舎名は庭の柿の木に由来)。1階は茶の間と夫妻の居間、2階の書斎は創作などに使用された。双柿舎は日曜日のみ見学が可能。

 起雲閣を出てしばらく坂を登ると、坪内逍遙が晩年を過ごした双柿舎があります。同舎のある水口町は、その名から察せられるように熱海郷の水源で、中心街とは異なりいまも古風な風情を残した町並みです。

 『小説神髄』『当世書生気質』で日本近代文学の祖として知られる逍遙。若い頃から熱海の風土を好み、新婚間もない1886年末に滞在した後、しばしばこの地で翻訳に勤しみました。1911年、荒宿(現在の中央町)に別荘を持って約9年間、シェークスピア劇の翻訳や、戯曲『名残の星月夜』などを著しましたが、町の発展により賑やかになったため、静けさを求めてこちらへ移居したと伝えられます。丘陵から見下ろす風景は、いまも在りし日の熱海の姿を想起させます。

逍遙の3年忌に夫人の思い立ちで建立された筆塚。筑波石の下には愛用品の毛筆と万年筆が納められている。

 双柿舎はすべて逍遙自身の設計によるもので、建物だけでなく庭や泉石の配置、一木一草にまで神経を配った佇まい。小説家として有名な逍遙ですが、『シェークスピヤ全集』40巻を完成させるなど、芸術全般に造詣の深い、現在のマルチタレント的な存在だったのかもしれません。逍遙の碑は、同舎からほど近い海蔵寺にあります。

和漢洋を折衷した、逍遙自身の設計による書屋。搭上にはシェークスピアの句から採った風見の翡翠(カワセミ)が。

双柿舎(そうししゃ)
所在地 静岡県熱海市水口町11-17
電話番号 0557-81-2232
開館時間 10:00~16:00
入館料 無料
休館日 月~土曜・年末年始
URL http://www.city.atami.shizuoka.jp/page.php?p_id=623

丘陵に面した水口町から見た熱海の市街地。相模湾から迫り立つような地形であることがよくわかる。

 明治の文明開化とともに保養地として開発された熱海。元勲や政財界人の別荘が建ち、やがて東京の奥座敷として当時で言う“ハイカラ”な文化人にも注目され、坪内逍遙をはじめ多くの文豪に愛される街として発展を遂げてきました。昭和高度経済成長期の観光ブームを経て現在、明治期以降の「比較的新しいレトロ」な感覚が、近代以降のブンガクの伝統と相まって、独自の魅力を放ちはじめています。

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