「そういう家で……育ったから?」
それはともかく、同じ家に育ちながら、「父みたいなことだけはすまい」と思った兄と、疑問を持たずに刷り込まれてしまった弟。この違いを考えてしまう。そして「知らずのうちに父の真似をしていたのか……?」と考える勝男に、幼い兄の子どもは「なんでじいちゃんの真似をするの? 勝男は勝男なのに」と無垢にたずねてくるのだった。
「そういう家で……育ったから?」と答える勝男。このセリフを聞いた瞬間、勝男・父の少年期の食卓も見えてくるような気がした。彼もまた「和気あいあいの食事時間」といった環境なぞ、持ち得ない過去があったのかもしれない。弁護したいわけではないのだが、負の連鎖をどうしても想像してしまう。
よく言われることだが、人間は「自分が関わらなくて済む問題」に関しては、とことん鈍感になれる生き物だ。私は常々、何かハラスメントや差別の問題に対して「考えすぎ」という気持ちが湧いてしまうときというのは、自分が「考えなさすぎ・知らなさすぎ」のときであると思っている。その人たち、その問題について知識や経験がなければないほど、人間は即座に問題性を否定してしまいがちで、「他愛もないこと」と判断しがちなもの(例えば名前のない家事問題しかり、選択的夫婦別姓や同性婚の問題しかり)。
食事に対してダメ出しをする、というのはとどのつまり、作っている相手と家事労働を「下」に見ているところに問題がある。勝男・父や第1話の勝男に、妻や彼女の人格と仕事を尊重していない、否定していると伝えたところで、「否定なんかしていないですよ! もっとより良くなってもらうために彩りとか、味つけに関してアドバイスしただけで……。経済的にも不自由はさせてないし、僕の何が悪いのでしょうか?」と言うかもしれない。
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- 文=白央篤司
写真=TBSスパークル/TBS - keyword










