「楽にいきましょう」
今年35周年を迎えたBEGIN。7月にニューアルバム「太陽」をリリースした。そこに収録されている「なんくる君であれ」のMusic Videoなんて、船も飛行機もいらない、観て聴くだけで石垣島まで行ける、BEGIN版どこでもドアだ! 「ほあ~」と顔の筋肉が緩み、気が付いたら、幸せな気持ちと切ない気持ちがいっしょに、額の真ん中あたりの毛穴からしんしん浸透していくのだ。おかげで、しばらくは鼻と目がジワッと熱くなる。つまり、どこでもドアであると同時に、聴くホットアイマスクでもある!
「なんくるないさ」は「何とかなる」という意味でよく使われるけど、「なんくる」が別の言葉とセットになっているのはあまり聞いたことがなく、調べてみると「自然に」という意味だった。この意味を知った瞬間、夏のライブでの彼らのMCを思い出した。
「みなさん、頑張って拍手しようとしなくていいです。楽にいきましょう」
あっはっは! あのとき私は笑うと同時に、ずっと肩のあたりにへばりついていた緊張が、プシュアーと小さい発泡音をたてて静かにはじけ消えていくのを感じたのだ。
彼らの歌声と、会場に満ちた笑顔と乾杯に揺れるグラスの光景、そしてこの「楽にいきましょう」の言葉は、今も不思議な温度を持って心に残っている。
「いつか琉球音楽とブルースを融合したオリジナルな歌を日本中の人たちに届けて、沖縄と日本本土の架け橋になりたいって使命感に燃えてた。誰にも頼まれてないのに」
BEGINデビュー35周年を記念した婦人公論.jpのインタビューで、比嘉さんはデビュー当時についてこう語っていたが、本当にその通りになっている。石垣島に降り注ぐ太陽は、こんな感じであったかいのだろう。彼らの声を聴いて想像したとおりに。
これからも、ふと「BEGIN」を聴くたび、流れてくるやわらかい歌声と三線の響きに、肩の力が抜けるだろう。なんくる私でいれるだろう。
そして、歌の隙間からこの言葉も聞こえてくるのだろうなあ、と思うと、それだけで嬉しくなるのだ。
「楽にいきましょう」
ああ、本当に声のおまもりだ。
Column
田中稲の勝手に再ブーム
80~90年代というエンタメの黄金時代、ピカピカに輝いていた、あの人、あのドラマ、あのマンガ。これらを青春の思い出で終わらせていませんか? いえいえ、実はまだそのブームは「夢の途中」! 時の流れを味方につけ、新しい魅力を備えた熟成エンタを勝手にロックオンし、紹介します。

