気取らず、ふらっと立ち寄れる“街のうつわ屋さん”でありたい

「初めの頃はうつわブームと重なったこともあって“ネオ民藝”の店なんて言われたりもしたんですが、僕はそれがどうにも違和感があり……。僕たちの生活の中には、民藝の流れをくむうつわや道具もあれば、デザインされたプロダクトや100均のものもある。店もまた、自分の生活の延長線上にある存在として、いろいろなうつわやプロダクトを紹介したいと思ったんです」

宇野さんが目指しているのは“街のうつわ屋さん”。初めてうつわを自分で買う若い世代や、今までお気に入りのうつわに出会えなかった方々が、時間をかけてじっくりとご飯茶碗を選んでいる姿を見ると嬉しくなるという。ゼロからスタートした“街のうつわ屋さん”は、やがて作家とのつながりが紹介へとつながり、輪が広がっていった。
「初めてうつわを買うときに、思い出してもらえるような存在になりたいんです。使っている土や釉薬がどうという話よりも――もちろん、必要に応じて説明はしますが――、作り手のストーリーやどんな料理を盛るのか、その先のことまで一緒に考えられたら」


現在は常設展のほか、不定期で作家の個展や企画展が開催されている。客層は20~50代と幅広く、最近では国内外の外国人のお客様も多いのだとか。コミュニケーションが生まれやすいよう、それぞれの世代に近いスタッフを配置しているのも特徴のひとつ。
うつわは飾っておくものではなく、毎日使う道具。そんな思いから、取扱作家のうつわを使った料理教室や道具のお手入れワークショップなど、うつわを日々の暮らしに結びつけるようなイベントも企画している。
「こうしたイベントの目的は“うつわ好き”のすそ野を広げることなんです。お酒や料理をテーマにしたイベントをやっていると、飲食店と間違えた方が『2名なんですけど……』と入ってこられることも(笑)。」
単に「うつわを買いに行く」ためだけではなく、「SMLに行きたい」と思ってもらえる存在になりたいと話す宇野さん。

「正直なところ、毎回何かを買わなくてもいいんです。スタッフに会いに来たり、大切な人への贈り物を探すときに『そういえば』と思い出してもらえたら」
SNSが発達し、一般の人でも窯元や作り手と直接つながれる時代だからこそ、自分たちなりのセレクトや、一つ一つのうつわや道具がより身近に感じられる見せ方、そしてぬくもりのあるコミュニケーションを大切にしながら、魅力ある店を作り続けている。

工藝 器と道具 SML
所在地 目黒区青葉台1-15-1 AK-1ビル1F
電話番号 03-6809-0696
営業時間 12:00~19:00(土日祝は11:00~)
定休日 不定休
Instagram @kiguu15

2025.10.18(土)
文=河西みのり
撮影=深野未季