人気作家のうつわを求めてお店に行ったものの売り切れていた、お目当ての商品が入れ替わっていて手ぶらで帰宅……こんな苦い経験がある人も多いはず。おすすめしたいのは、店主やバイヤーのセレクトが秀逸で「いつ訪れても」素敵なうつわに出会えるお店。今回は、中目黒のうつわ店「工藝 器と道具 SML」をご紹介します。


小鹿田焼との出合いから、“民藝”の世界へ

 中目黒駅から池尻方面へ、徒歩7分。目黒川沿いから少し路地を入った住宅街に構える「工藝 器と道具 SML」。店内には、全国各地の作家が手がけたうつわを中心に、日々の暮らしを彩る生活道具が並ぶ。

 開業は2008年。

 「はじめは恵比寿の、小さなガレージのようなところからスタートしたんです。6畳くらいだったかな」と話す店主・宇野昇平さんは、もともとはデザインが本職。デザインの仕事は受注が基本。それだけにとどまらず、自分たちから何か発信がしたい、とまずは恵比寿にカフェと海外雑貨を扱うセレクトショップを開いた。

 ヨーロッパを中心に買い付けに行くたび、「日本のデザインの方がクールなのに、なぜこんな場所に来るんだ?」と言われることも多く、もどかしさを感じていたのだとか。そんな宇野さんにとって、大きな転機となったのは、「ヨシタ手工業デザイン室」の横須賀雪枝さんを通して知った小鹿田焼との出合い。

「それまでまったく知らなかったのですが、こんなにモダンなデザインのうつわが日本で、それも300年も前から作られていたなんて……と衝撃を受けました。そうして調べていくうちに“民藝”というキーワードにたどり着きました」

 民藝に興味を持った宇野さんは、山陰や九州をめぐり、さまざまな作り手のもとを訪れる。

「どうアプローチすればいいかわからなかったから、事前に筆ペンで手紙を書いたんです。当時の僕は、陶芸作家=ガンコで、でき上った作品が気に入らなかったら割ってしまう、と思い込んでいて(笑)。それで、いきなりメールや電話は失礼だからと、とてつもなく長い手紙を書いたうえで電話をかけたら『いまどき、あんな手紙を書く人はいないよ』とあきれられてしまいました」

 結果的に、「印象を残すことができたから、お付き合いが続いているのかもしれません」と笑う宇野さん。自分と同じように「うつわとの出合いに心を揺さぶられる衝撃を受ける人がいるはずだ」と感じ、雑貨店からうつわの店へ転向。小鹿田焼をはじめ、民藝の流れをくむうつわを中心に扱っていたが、やがて「民藝は生活を彩るひとつのエッセンスだ」と考えるように。

2025.10.18(土)
文=河西みのり
撮影=深野未季