「全財産はアンパンマンに贈る」

 アンパンマン美術館は準備中だが、アンパンマン・ショップは歩いて5分のところにオープンした。

 毎日子供達が来て遊んでいる。それを見ているのは楽しい。このさびしげな人生がいくらか明るくなる。

 アンパンマンとめぐり逢えて本当によかった。これが幸福な晩年というものかもしれない。

 ただ店に行くと、お母さんがすぐに子供といっしょに写真撮らせてくださいと言って、カメラでパチパチやられるのには閉口する。ぼくはタレントでもスターでもない。その上にもう年をとっているし、容貌風姿ともによくない。

「さあ、アンパンマンの先生といっしょに写真とりましょうね」

 若いママは大はしゃぎでカメラをかまえるが、子供の方はなんだか解らないヘンなおじいさんといっしょに並んでもちっともうれしくないから、ベソをかいたような顔になる。

 それでもぼくは客商売だからことわれない。

 にっこり笑って、

 はいチーズ!

 Vサイン!

 ま、こんなところで、4コマ目のオチはきまったかな。

 でも、本当のラストシーンはまだ誰にも解らない。

 未来のことは解らない。鬼がでるか蛇がでるか、吉か凶か。

 いずれにしたって、それはその日のお楽しみ。終りの頁は空白にしておくから、そこへ勝手に書きこんでおくれ。

 ○年○月、やなせたかし死す。

 全財産はアンパンマンに贈る。

2025.10.11(土)
著者=やなせたかし