時計と人との蜜月は、はるか昔から始まっていた。7つのマニュファクチュールから、時計との関わりが人生の転機となった、人と時計の物語を紐解いていこう。


時計が繫ぐ幸運の連鎖

 時計との出会いが、人生を大きく動かすことがある。冬季五輪6大会に連続出場するという快挙を成し遂げた世界的スノーボーダーの竹内智香さんにとって、リシャール・ミルとの出会いはまさに勝利への切り札になった。

 最初の出会いは、2013年のこと。厳選されたトップアスリートが選ばれているリシャール・ミル ファミリーへの参加を呼びかけられたのだ。これまで手にしたことがないラグジュアリーウォッチとの繫がりに最初は躊躇したものの、“勝利を呼ぶ時計”という言葉を耳にして、オファーを受ける決心をした。

「リシャール・ミル ファミリーに選んでいただいてから、実際にその時計を愛用するようになり、軽くて着けやすく、いつでもベストなパフォーマンスができることに驚きました」と竹内さん。最初は、シルバーカラーのケースを持つモデル。その1本とともに、2014年のソチ五輪では、銀メダルを手に表彰台に上がった。その後、金メダル獲得の決意も込めて、ゴールドケースのモデルと交互に着用している。

「ゴールドの時計は、シンプルな装いに1本着けるだけで華を添えてくれるので、大会の後のパーティでも活躍しています」

 何より、0.01秒を競う競技をしている竹内さんにとって、リシャール・ミルとともに過ごす日々の中で、時間に関する考え方が変わったという。

「トレーニングでも、最後の1秒までやり切る。そうやって1日1日を積み重ねた先にゴールがあるという思いが強くあります。その中で“いい時を刻む”という言葉が自分の生き方の指針となりました」

 そう思えるようになったのは、機能やデザインの素晴らしさだけではなく、“本物中の本物”と二人三脚で進むことで影響されたとも語る。

「本物を身に着けていると本物に出会うことができる。そんな素敵な繫がりをつくってくれるリシャール・ミルによって、人生が豊かになりました」

 本物との出会いの中でも最も大きい存在は、同じリシャール・ミル ファミリーのアスリートたちだ。トレーニング中に、ファミリーたちの活躍が励みになる。チャリティ活動を一緒に行う仲間でもあり、北海道胆振東部地震の際には、被災した子どもたちのために地元の東川町で一緒にスノーボードイベントを行った。

「リシャールミルジャパン代表取締役社長の川﨑圭太さんを、私たちファミリーの父とお呼びしていますが、成績に関係なくつねに温かく応援してくれることが心の支えになっています」

 ファミリーからの応援や、多くの人の期待に応えるように、彼女は今年、大きな決断をした。2026年の冬季ミラノ五輪出場を最後に引退すると宣言したのだ。

「今回、初めて終わりを決めて挑むシーズンを迎えます。これまで、怪我など辛い時期もありましたが、人生は良いことも悪いこともセット。苦しいことがあったから体得できたことがある。時が教えてくれたことを糧に、来年の大会に臨みます」

竹内智香

1998年冬季五輪長野大会で初めて公式競技となったスノーボードに魅了され、競技を始める。瞬く間に才能を開花させ、2002年のソルトレイクシティー大会に出場。2012年にはワールドカップで初優勝し、世界ランク2位で挑んだソチ五輪で日本人女性スノーボード選手で初のメダルを獲得。2022年には2年間半のブランクを経て、6度目となる冬季五輪北京大会に出場した。次世代スノーボード選手の育成をサポートするクラス「&tomoka(アンドトモカ)」主催。引退後は、活動を休止していた間に行っていた地域貢献事業や子どもの育成事業、健康づくりなど「種まきしたものをしっかりと花を咲かせる活動をしたい」と語っている。

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文藝春秋が発行するラグジュアリートラベルマガジン「CREA Traveller」の公式サイト。国内外の憧れのデスティネーションの魅力と、ハイクオリティな旅の情報をお届けします。

2025.10.06(月)
Edit & Text=Rica Ogura
Photo=Atsushi Hashimoto

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※この記事のデータは雑誌発売時のものであり、現在では異なる場合があります。

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