とはいえ、当時はまだ仕事も忙しくて、海外には年に一度行けたらラッキーなほう。スケジュールの合間を縫って、ようやく取れた数日の休みで、2泊4日なんてこともざらにあった。

 英語もまだ全然話せなかったし、少しずつ勉強はしていたけれど、流暢にはほど遠く、飛行機にひとりで乗るのもドキドキ。入国審査のカウンターでは、何を聞かれるのかといつも不安だったし、レストランでの注文も、トイレの場所を聞くのすら緊張したのを覚えている。

カミングアウトしたことで、何かがほどけた

 でも、そうして旅を重ねていくうちに、世界中で多くの人たちに出会い、気心の知れた友だちが増えていった。彼らとの交流は、自分の価値観を広げてくれるだけでなく、心の支えにもなっていったと思う。その中で、世界には本当にさまざまな生き方があり、ありのままの自分でいてもいいと感じられる場所がたくさんあることを知った。そんな気づきがあったからこそ、カミングアウトをする勇気も湧いたのだろう。もし旅をして外の世界を見なければ、あの大きな一歩は踏み出せなかったはずだ。僕にとって、旅は人生を変える力があった。

 僕自身の解放。カミングアウトしたことで、自分の中の何かがほどけた。もちろん、すべてが順調だったわけじゃない。応援してくれていたファンの一部が離れてしまったり、日本にいる時間が減ったことで、表に出る機会が少なくなったり。それでも自分の“ハピネス”を選んだことに、まったく後悔はない。旅が好きで、世界を見ながら生きたいと思ったからこそ、今の自分がある。

 現在は、ノマドのような生活スタイルで暮らしながら、自由を楽しみつつ、自分のペースで仕事をしている。それはただ自分に正直でいたかったから。葛藤や不安がないわけではないけれど、今は、「どう見られるか」よりも、「誰にどう届けるか」を大切にできるようになったと思う。応援してくれるファンの方々の存在は、いつも僕の支え。「どんなことをしたら喜んでもらえるだろう」と考えながら、自分なりの歩幅で、仕事と向き合っている。

次のページ どこに行っても、「日本人であること」の強みを感じる