この記事の連載
【知床】生き物たちの鼓動に耳を澄ます 前篇
【知床】生き物たちの鼓動に耳を澄ます 後篇
道東に位置する知床半島は「大地の果てるところ」ともいわれるアイヌ語の“シリ・エトコ”が語源。豊かな世界自然遺産の地で野生動物や植物の息遣いを感じ、自然の尊さを見つめる(続きを読む)。
地質が織り成す自然美と動物との共存が知床の宝

耳を澄まし、木々のざわめきや生き物の気配に心を傾ける。都会にいると鈍ってしまう自然に対する感性をフル稼働させることが、知床のネイチャー旅の醍醐味だ。


知床半島は縦長のコンパクトなエリアの陸海に多様な植物、鳥類、哺乳類などが生息している。

「彼らが棲む場所にお邪魔する気持ちで行きましょう」という、「ピッキオ知床」のネイチャーガイド・山崎誠さんの言葉を心得にして、森に入っていく。

訪れたのは知床国立公園内の知床五湖を巡るルート。遊歩道を進むと針葉樹と広葉樹が混在した森の美しさに引き込まれ、静寂の世界に響く鳥の鳴き声が優しく耳をなでる。

樹木の密集地帯を抜けると、知床五湖の中で最も小さい「五湖」の水面に山々が映り輝いていた。知床五湖の水は地下から湧き出たもの。約3700年前の硫黄山の噴火による山体崩壊で岩が堆積し、雪解け水や雨が岩の間から地下へと流れ、湖となった。知床独自の地質が生み出した自然美だ。

さらに道中、山崎さんが「これがヒグマの爪痕です」と木の幹を指さす。ヒグマはアイヌの社会でカムイ(神)と呼ばれる存在。知床はヒグマがいる密度が特に高く、共存していく取り組みを行っている。

知床五湖地上遊歩道に入園する際にはヒグマのレクチャーを受け、活動期(5月初旬~7月)と冬はガイドをつけることがルール。「人間ができるのは、ヒグマに出会わないこと」だという。

ヒグマは鼻が利くため、飴やジュースといった糖分が入ったものは持たずに森へ入る。彼らが潜みやすそうな藪の近くを通る際、ガイドは足を止め手を鳴らし大きな声を出す。“人がいること”を彼らに伝えるのだ。音を鳴らしたあと、耳を澄ましてカサカサと動物が草むらで動く音がしたかを確認。近くにいた際はゆっくりその場から立ち去る。
ルールを徹底させることで知床五湖地上遊歩道では、ヒグマとの共存が成功している。その話を聞くとおのずと音や気配に敏感になるのだ。
ピッキオ知床
所在地 北海道斜里郡斜里町ウトロ東284
電話番号 0152-26-7839
〈知床の海と陸のツアー〉ゴジラ観光のクルジーング(午前)、ピッキオ知床のトレッキング(午後)のセット13,100円~(夏季のみ)、〈原生林トレッキング〉6,000円など。
https://shiretoko-picchio.com/

Column
CREA Traveller
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2025.10.02(木)
文=梅崎奈津子
写真=橋本 篤
CREA Traveller 2025年秋号
※この記事のデータは雑誌発売時のものであり、現在では異なる場合があります。