筆使いの面白さ
――長澤さんはもともと絵がお好きだと伺いました。
長澤 子どもの頃は絵を描くのがすごく好きでした。でも東京に引っ越してから、絵がうまい人がまわりにたくさんいすぎて、恥ずかしくて描かなくなってしまいました。
――本作の浮世絵監修を務めた日本画家の先生から浮世絵の特訓も受けたそうですね。長澤さんがあまりにもお上手なので、もう教えることがないと言われたそうですが……。
長澤 とんでもない! 共演した髙橋(海人)さんもすごく絵がお上手なので、一緒に描くのは恥ずかしかったくらいです。

――どのようなことを教わったのですか?
長澤 浮世絵特有の筆の持ち方や、当時は高い机がなかったので、床に這うようにして描かざるを得なかった応為の作画スタイルなどを教えていただきました。日本画の筆って、お習字の筆とは違い、毛足が長くて細長いんです。それを、現代のペンのような感覚で、墨の濃淡や細さ、太さを自分で調節しながら大作を生み出しているのがこの時代の北斎の絵だと習いました。
全然マスターはできませんでしたが、たくさん練習を重ねて、筆使いの面白さを学ばせていただけて、それが芝居でも醸し出せたのではないかと思っています。
暮らしのなかで大事にしていること
――応為はキセルと犬と北斎の絵が好きでした。長澤さんが大事にされているものをあげるとしたら?
長澤 民藝です。お茶碗など、日々の暮らしに潤いを与える生活の道具が好きで、今少しずつ集めています。
もともと陶器が好きで集めていたのですが、美術品や鑑賞のための工芸品ではなく、日常で使われることを前提とした民藝を知り、自分のお気に入りのアイテムを見つけたいと思って、少しずつそろえているところです。
2025.10.17(金)
文=相澤洋美
写真=榎本麻美
ヘアメイク=スズキミナコ
スタイリスト=百々千晴