運にも縁にも恵まれた人生 でも、それが分かるのは後になってから

――三浦家の家訓、のようなものはありますか?
ないですね(笑)。そんな立派なものがあったなら、そもそもこういう生き方を自分がしていないんじゃないかな。
――「やりたいことをやりなさい」という教えだったんでしょうか。
というよりも、僕自身もやりたいことをやってきたという覚えもなくて(苦笑)。なんとなく、やりたいことがないからこの仕事に入っちゃった、みたいな部分がありましたから、「やりたいことはやったほうがいいよ」とも人には言えないですしね。
自分の生き方が揺れていたんです。でも、いろんなご縁や運に恵まれて、ここまでこの仕事で生活できているということが奇跡だと思っています。本当に、運と縁に恵まれないとダメだから。
そういう意味では、息子たちは難しい世界に入ったなと思っていますよ、今でも。
――年齢を重ねられて、“役者”という職業について向き合い方が変わってきた、ということはありますか?
向き合い方は自然に変わっていきました。デビューしてもう50数年になりますが、最初の10年は右も左も分からずにいて。望んで入った世界ではなかった……というと言い方が悪いですが、あっという間にデビューが決まって、あっという間に何となく顔と名前が知られて。映画青年でも演劇青年でもなかったのに、“俳優”という仕事を“柄”だけでやらせてもらっていました。本当に恵まれていたんです。それはあとから気がつくんですけれど。
なので、若いころはあまり真剣に考えてなかったと思います。そこから段々と真面目にやろうと思っていくのですが、それでもまだ、仕事の中では自分のことしか考えていない時代が長かった気がします。
――いくつくらいから、その考えに変化が現れましたか?
30代、40代を経て、50代くらいですかね。その頃から、実は僕の仕事は“この作品を作っているうちのひとり”だということに気がついたんです。本当に当たり前のことなんですが、この現場にいるスタッフ、キャストを全部合わせて、その中のただひとりなんだってね。
出演者ではなくて、俳優でもなくて、その作品に関わっているひとり、という考え方にどんどん変わっていくんです。ようやく、そんなふうに思えるようになりました。

――CREAの読者層は30代女性の割合が多いです。三浦さんからそれくらいの年齢の女性に生き方のアドバイスはありますか?
結婚している方も、していない方もいらっしゃいますよね。仕事をしている方も、専業主婦の方もいらっしゃるでしょう。どちらも素晴らしい仕事だと僕は思うんです。社会で働くこともそうだし、主婦の方もそうだし。自分のやっていることに誇りを持てるような、いろんな方との関係性を築いていくのがいいんじゃないかと思います。それは会社の人かもしれないし、家族や友人かもしれないし。
――先ほど「ご縁に恵まれた」と仰っていましたが、それはやはり“関係性”を大切にしてきたからこそですね。
運や縁というものは、後で気づくんです。仕事でも結婚生活でもそうですが、本当に良い人に恵まれたというのは後で気づく。それまでお互いに「いい関係でいよう」と努力をしてきた結果かもしれませんが。おそらくね。
――最後にひとつ、教えてください。これから先の人生で、個人として叶えたい夢はありますか。
ないなぁ(笑)。そんなふうに考えたことがない。恵まれてるんでしょうね、本当に(笑)。
でも、絶対にいつか終わりが来るのだということは、60歳を過ぎたころから考え始めました。還暦を迎えたころにはまだお袋が元気だったので、「60歳になっちゃったよ」って話したら、「まだまだこれからよ」って言われて。
それは今こうやって年を重ねてきて、身に染みて分かりました。60代はまだ全然元気なんです。でも70代になると色々とガタが来る。お袋は95歳まで生きたけれども、80歳超えて元気で仕事をしていられたら素晴らしいなと思っていて。その年齢までこの仕事ができる体力と頭が残っているといいなあと思います。それが夢かな。
三浦友和(みうら・ともかず)
1952年1月28日生まれ、山梨県塩山市(現・甲州市)出身。1972年のTBSドラマ『シークレット部隊』で俳優デビューし、1974年には映画『伊豆の踊子』で山口百恵さんの相手役に抜擢され、第18回ブルーリボン賞新人賞を受賞。その後も、『台風クラブ』、『ALWAYS 三丁目の夕日』シリーズ、『沈まぬ太陽』、『アウトレイジ』など数々の話題作に出演し、日本映画界の第一線で活躍し続けている。2012年には紫綬褒章を、2023年には旭日小綬章をそれぞれ受章し、その芸術的功績が国からも高く評価されている。
『遠い山なみの光』
全国公開中
監督・脚本・編集:石川慶
原作:カズオ・イシグロ
出演キャスト:
広瀬すず、二階堂ふみ、吉田羊
松下洸平、三浦友和
柴田理恵、渡辺大知、鈴木碧桜

2025.09.11(木)
文=前田美保
写真=佐藤 亘