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 物腰が柔らかく紳士的な顔立ちは“ハンサム”という言葉がピッタリで、三浦友和さんがテレビドラマや映画に出演すると、女性からはいつまでも黄色い声が飛び交うほどの大人気ぶり。そんな三浦さんも、今年で御歳73歳。デビューから半世紀以上にわたり俳優としての幅広い表現力と安定した存在感を武器に、日本映画界の礎を築いてきた名優です。

 そんな三浦さんが、文豪カズオ・イシグロの原作を映画化した『遠い山なみの光』に出演されています。本作で演じるのは、広瀬すずさんが演じる悦子の義父であり、戦時中は軍国主義を貫いた元校長という役どころ。舞台は原爆が投下された長崎です。戦後80年を迎える今年に映画化されるからこそ、その時代に馳せる気持ちなどをじっくりと伺いました。


軍国主義を貫いた男性の葛藤を演じる

――三浦さんが映画『遠い山なみの光』に出演を決めた理由を教えてください。

 最初に監督からお手紙をいただきました。ある作品を観てくださって、「あ、緒方(本作での役名)を見つけた」と思ってくださったらしいです。そのようにお手紙をいただき、ぜひお願いしたいというふうに言われて、そこから脚本、原作を読ませていただきました。そこで、私も「ぜひ、お願いします」ということで出演と相成りました。

――監督ご本人から「緒方を見つけた!」とお手紙があり、実際に原作や脚本を読まれて、実際にどんな感想を持たれましたか?

 今回は特に「難しいな」と思いました。緒方は軍国主義の人であり、軍国主義教育をしていた人間ですから。

 戦争真っ只中の時代ではなく、終戦から7年経った1952年の話で、とても貧しかったけれども、平和な国に戻ってはいる。でもみんなが戦争の傷跡を引きずっているという時代です。しかも、長崎の話ですから、もっと違った想いを抱えた人たちが周りにいるという状況です。

 7年経って、軍国主義だった自分を見つめ直さなくてはいけない時期に来ていて、緒方は、何とか自分のことを清算しなくてはいけないと思っているんだろうな、と。

――少し前までは当たり前とされていたことが、180度方向転換してしまったわけですから。

 そうですね。軍国主義だったときの自分を振り返って、そういう教育をしたこと。でも「国のため」に自分はやっていたという葛藤があるんです。

 そういった両方の想いを抱えている人物なので、すごく難しいなと思いました。

――善と悪がこれほどまでに入れ替わることは、しかも生死に関わることでは、そう頻繁に起こることではありません。

 年齢を重ねた緒方にとっては難しいことでしょうね。彼には二郎(松下洸平)という息子がいますが、その彼も自分で仕事を見つけていて、そこで頑張っている。でも、自分はまだ時代に取り残されていて……。

 女性たちを見ると、悦子(広瀬すず)さんや佐知子(二階堂ふみ)さんがいて、新しい日常に順応しているわけです。順応性があるというのは“強い”ということですから。この作品において、女の人のほうが本当に強い(笑)。

2025.09.11(木)
文=前田美保
写真=佐藤 亘