この記事の連載
三浦友和さんインタビュー前篇
三浦友和さんインタビュー後篇
女性は強く、男性は繊細な心を持っている――。そうじゃないと役者という仕事は難しい

――役柄ではなく、ご自身でも「女性は強く、男性は弱い」と感じられることはありますか?
この仕事をしていると特に思いますね。
同じ役者でも女性たちのほうが強く、男のほうが女々しいと思います(笑)。おそらく、強くないとこの仕事を続けていくことが難しいということだと思うんです。
さっき男性は“女々しい”と言いましたが、言い換えるなら、“繊細な心”を持っていないと、この仕事はできないということです。役者という仕事に限らないかも知れませんね。
映画の中で“男の中の男”という役柄をやっている俳優は、“男の中の男”という人物を演じている人なんです。本物の豪傑みたいな人はなかなかいないですし、いたとしても俳優には不向きでしょうね。
――たくさんの女優さんにお話を伺っていますと、子育てとの両立などで大変な中でセリフを覚えて……というお話が出てきます。
そうなんですよね。そういう部分でも、強さが備わっているんです、女の人には。

――今作では広瀬すずさんや二階堂ふみさんが演じられたキャラクターも、ある意味で強い女性として描かれていると思います。おふたりの共演者として、どのように彼女たちをご覧になりましたか?
共演者としては、おふたりとも初共演だったんです。(松下)洸平くんと一緒になったこともありませんでした。主に絡む3名が初共演だったので、私が演じた役柄としてはとてもやりやすかったですね。役柄の中ではあまり親しい関係ではなく、お互い距離を取って、探り合いながら存在しているというシーンが多かったものですから。
「何を考えているだろうな、この人は」「どういう思いで、今自分を見ているのだろう」「この言動にはどんな意味があるんだろう」など、そういう空間ばかりだったので、撮影の間はほとんど会話をしないままでした。
――それは“あえて”ですか?
なんだか、そういう雰囲気になってしまうんですよ。
――確かに作品の中でも、緒方と周囲の人にはわだかまりがあるというか、ずっと居場所がないような感じでした。
この緒方という僕の役は、息子を戦争に送り出していて、その息子には当然嫌われているわけです。
広瀬すずさんが演じた悦子さんは戦争中に学校の臨時教師として雇われていて、緒方とは校長と教員という関係性でした。そのとき、原爆が投下されて、悦子さんは自分の家に住み込むことになる。当時、息子は出征していて家にはいませんでした。
ものすごく年は離れているのですが、ふたりの間には微妙な関係性があるというのが原作には描かれています。
その匂いは映画の中にも出ていると思いますが、そういう流れもあって、お互いに初共演で良かったなと思いました。
――作品を撮り終わったあとで、印象は変わりましたか?
撮影が終わってから会ったのはカンヌ国際映画祭。カンヌで数々の大きなイベントがあったあとに、(吉田)羊さんと洸平くんとすずちゃんの4人で食事をしました。そのときは、ただイベントの話をしながら、飲んで食べてという感じだったので、特に作品について話し合うこともなくてね。ただひたすらに、解放された感じでした(笑)。
三浦友和(みうら・ともかず)
1952年1月28日生まれ、山梨県塩山市(現・甲州市)出身。1972年のTBSドラマ『シークレット部隊』で俳優デビューし、1974年には映画『伊豆の踊子』で山口百恵さんの相手役に抜擢され、第18回ブルーリボン賞新人賞を受賞。その後も、『台風クラブ』、『ALWAYS 三丁目の夕日』シリーズ、『沈まぬ太陽』、『アウトレイジ』など数々の話題作に出演し、日本映画界の第一線で活躍し続けている。2012年には紫綬褒章を、2023年には旭日小綬章をそれぞれ受章し、その芸術的功績が国からも高く評価されている。
『遠い山なみの光』
全国公開中
監督・脚本・編集:石川慶
原作:カズオ・イシグロ
出演キャスト:
広瀬すず、二階堂ふみ、吉田羊
松下洸平、三浦友和
柴田理恵、渡辺大知、鈴木碧桜

2025.09.11(木)
文=前田美保
写真=佐藤 亘