人生のロールモデルとなった2人の女性

 そして今年、41歳でIOC会長に就任。リオ大会からわずか9年。なぜ子育てをしながら、ここまで着実にセカンド・キャリアを積むことができたのだろうか?

コベントリー会長「人生を通して、私にはお手本になる女性が二人いました。一人は祖母、もう一人は競泳のコーチです。

 私の祖母はとてもパワフルな女性でした。彼女は常に『何を得るにも努力と時間と犠牲が伴う。楽に手に入るものなど何もないのよ』と言っていました。ですから私にとって努力をしたり自分にチャレンジを課したりするのは当たり前のことでした。

 それから、01年から現役を引退するまで私のコーチだった女性は、アメリカのトップコーチの1人であり、2人の子どもの母親でした。彼女は7か月の小さな赤ちゃんがいたときもコーチを続け、私は五輪でメダルを獲得しています。

 つまり、母親でいるべきか、キャリアを優先するべきかを選択する必要はなく、両方出来るのだという姿を目の当たりにしてきたのです。とても幸運だったなと思いますね」

“母親業かキャリアか”選ぶ必要はない

 手本となる女性が身近にいたおかげで、常に自分の可能性を信じ続けることが出来た、とコベントリー会長。そしてIOC会長となった今、自身が若い女性たちのロールモデルとなる責任がある、と自覚している。彼女は6歳と0歳の2人の子どものママだ。

コベントリー会長「私は出産が遅かったので、まだ子どもが小さいのですが、学生時代の友人たちの子どもはもっと成長しています。でも、早く産もうが遅く産もうが、何かが変わるわけでも、どちらが正しいわけでもありません。いつ出産するのかは自分で決めればいいのです。

 そして、私がこの立場でやらなくてはいけないことは、若い女性たちに両方出来るのだ、と示していくことです。

 『優先すべきは母親業か社会的なキャリアか』などと選ぶ必要はありません。両方とも出来るバランスがあること、それを支える周囲のサポートも大事だということを伝えていきたいですね」

2025.08.07(木)
文=長島恭子