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 全国公開中の映画『木の上の軍隊』に堤真一さんとW主演している山田裕貴さん。少年漫画やアニメにも造詣が深い山田さんは、そこには強く惹かれる「言葉」や「物語」があると言います。今回は山田さんが、何度も繰り返し聴いている曲と、心に刺さった漫画の登場人物の言葉について話を聞きました。

【前篇】終戦を知らずに2年間、木の上で生き抜いた兵士を熱演…山田裕貴が語った、映画『木の上の軍隊』に込めた思い


 【あの曲】歌詞が、思っていることそのままなんです

 最も記憶に残っている一曲について尋ねると、山田さんは即答した。

「ディズニーのアニメーション映画『ヘラクレス』の劇中歌で、秋山純さんが歌っている『ゴー・ザ・ディスタンス』です。もう僕にとって、“好き”とかそういうレベルじゃないんですよ。この曲は藤井フミヤさんの(日本語版主題歌)が有名ですけど、僕が好きなのは、映画の中で主人公ヘラクレスの少年時代の声を演じる秋山さんが歌うバージョンです」

 熱を帯びた話しぶりに、深く大きな思いがあることが伝わってくる。山田さんはなぜそれほど強く惹かれるのでしょうか。その理由は子どもの頃にさかのぼり……。

「歌詞が、僕が思っていることそのままなんですよね。小さい頃から自分の居場所を探している感覚があって。みんなが笑ってくれると、ようやく『俺、ここにいてもいいんだな』と思える。ずっとそういう人間だったから、この歌がすごく刺さるんです」

 幼い頃からただのアニメの劇中歌としてではなく、自らの心情と重ね合わせながら聴いていたとのこと。そこには素朴で根源的な問いがあった。

「神様の子として生まれて神々の世界にいたヘラクレスが、人間になる薬を飲まされ人間界に落とされるのですが、そこでうまく馴染めずに自分の居場所を探すんです。僕にもその感覚があるというか、『なんで生きてるんだろう?』と子どもの頃からずっと思っていました。別に死にたいわけじゃない。でも『なんのために生まれてきたんだろう』って、ずっと探してる。僕にはそういう感覚が、たぶん子どもの頃から今もずっとあるんです」

 子どもの頃から抱き続けている生きることへの問い。山田さんの『ヘラクレス』との出会いは27年前のこと。その時この曲を耳にしてから、ずっと聴き続けているという。

「映画はもう30回以上は観ていると思います。絶対にそこ(曲が流れるシーン)で泣いちゃうんですよ。7歳の時にうちにVHSのビデオがあって、それを観たのが最初です。初めて観た時から一瞬で、『同じこと思ってる!』と子どもながらに思ったんです」

魂の琴線に触れる何かがあるんでしょうね

 その後はメディアの変化とともにDVDやブルーレイを購入し、今はディズニープラスの配信で観ているとのこと。普段は音楽をiPhoneでシャッフル再生し、曲を少し聴いては飛ばすことが多いそうだが、「ゴー・ザ・ディスタンス」だけは別格で、この曲がかかると必ずフルコーラスで聴くという。

「流れたら、必ず最後まで聴きます。次の曲に飛ばさない。僕にとって、“理解者”みたいな曲ですから。向こうに寄り添う気持ちはないと理解してますけど、わかってくれるのが曲だった、という感覚です」

 音楽は聴き手によって、時には味方になり友になり、時には信頼し鼓舞してくれるものになる。山田さんが実際に感じている音楽の役割について聞いてみると、自身の感動の在り処について、丁寧に説明してくれた。

「僕はそこまで大きく捉えたことはないし、音楽の力というより、歌そのものと歌詞の言葉に打たれています。魂の琴線に触れる何かがあるんでしょうね」

2025.08.02(土)
文=あつた美希
写真=松本輝一
ヘアメイク=小林純子
スタイリスト=森田晃嘉