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【あの本】僕は人それぞれの人生が好きなんだと思う

「言葉」や「物語」との共鳴は、漫画の世界にも通じている。漫画好きを公言する山田さんが何度も繰り返しページをめくる、特に心に残っている大切な作品たちについて教えてくれた。

「『ONE PIECE』『BLEACH』『NARUTO-ナルト-』『BORUTO-ボルト-』『呪術廻戦』『葬送のフリーレン』『キングダム』『僕のヒーローアカデミア』『BLUE GIANT』……」

 タイトルをひとつずつ挙げていく口調には、作品への愛着がにじむ。「(一冊に)決められないな」とぽつりと一言。

 冒険ものやバトルアクション、忍者活劇やファンタジーなどジャンルはいろいろ。多くは主人公の成長を描く少年漫画で、じっくりと時間をかけて人物の成長や関係性の広がりを描く長編であることも興味深い。アニメ化や映画化されている人気作品ながらキャラクターのファンというより、やはり物語に注目しているとのこと。

「主人公が好きかというと、そういうわけではないんです。キャラクターよりもやっぱり物語が好きですね。僕は人それぞれの人生が好きなんだと思います」

心に残っている『呪術廻戦』の言葉

 最初から最後までフルで何度も繰り返し読んだ作品も。山田さんが挙げてくれた作品はどれも長編ということもあり、今は多忙であまり読めていないそうだが、それでも読める時はある程度まとめて読むという。

「『ONE PIECE』は(フルで)多分7周ぐらいしています。1冊だけ読むとか拾い読みとかはしないで、◯◯編までとか、ある程度まとめて読みます。本格的に読み始めると止まらなくなっちゃうんです」

 読むというより“没入”に近い。まるで役に入り込むかのように、物語の世界に沈んでいくのだろうか。また『呪術廻戦』には、とても強く心に残っている言葉があるとのこと。

「主人公・虎杖(悠仁)のおじいちゃんが亡くなる時、『オマエは強いから人を助けろ』『大勢に囲まれて死ね』って言うんです。それがすごく刺さって。うんうん、そうだよな、自分もそうならないとな、と思いましたね」

 虎杖の祖父の言葉には、どこか山田さんの俳優としての在り方にも通じる何かがあるように感じられる。それは人としてどう生きるか、という問いへのヒントにつながるようにも。

「僕自身はわかっていないし自覚はないです。そう見えるなら、そうなのかもしれないですね」

 物語は、自分を見つめるための鏡のようなものであり、他者を想像するための窓のようなものでもある。山田さんは俳優として、ひとりの読者やリスナーとして、その両方を丁寧に行き来している。静かに、深く。今日もまた。
 

【前篇】終戦を知らずに2年間、木の上で生き抜いた兵士を熱演…山田裕貴が語った、映画『木の上の軍隊』に込めた思い

山田裕貴(やまだ・ゆうき)

1990年生まれ。愛知県出身。2011年に「海賊戦隊ゴーカイジャー」で俳優デビュー。以降、映画『あゝ、荒野 前篇・後篇』(17)、『あの頃、君を追いかけた』(18)、『東京リベンジャーズ』シリーズ(21・23)、『燃えよ剣』(21)、『余命10年』(22)、『キングダム 大将軍の帰還』(24)などに出演。2022年にエランドール賞新人賞、2024年には『ゴジラ-1.0』『キングダム 運命の炎』『BLUE GIANT』などの演技が評価され、第47回日本アカデミー賞話題賞(俳優部門)を受賞。Netflix映画『Ultraman: Rising』や『ジョーカー:フォリ・ア・ドゥ』では、日本語吹替版キャストを務める。2025年は『ベートーヴェン捏造』(9月公開)、『爆弾』(10月公開)が控えている。

『木の上の軍隊』

新宿ピカデリーほか全国公開中
監督・脚本:平一紘
出演:堤真一 山田裕貴 津波竜斗 玉代㔟圭司 尚玄 岸本尚泰 城間やよい 川田広樹(ガレッジセール)/山西惇
原作:「木の上の軍隊」(株式会社こまつ座・原案 井上ひさし)
主題歌:Anly「ニヌファブシ」
配給:ハピネットファントム・スタジオ
©2025「木の上の軍隊」製作委員会
https://happinet-phantom.com/kinouenoguntai/

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2025.08.02(土)
文=あつた美希
写真=松本輝一
ヘアメイク=小林純子
スタイリスト=森田晃嘉