この記事の連載

いろんな経験を糧にして今に至っています

──歌うときはどんなことを意識されていますか?

平野 この楽曲は、チョコレートガールとして華々しく活躍し、みんなの人気者だったモファットが、人生のどん底に突き落とされたなかで歌うナンバーです。

 今まで持っていたものをすべて失い、自分のことを思い出してくれる人なんか誰もいない状況に陥ったモファットですが、それでも強くたくましく、希望を失わずに生きています。

 モファットはきっと、辛い経験も全部飲み込み受け入れ、絶望を希望に変換して生きてきたのだと思います。どんな状況の中にいても笑うことを忘れてはいけない、という姿勢が伝わるように試行錯誤しています。

──いまのお言葉は、平野さんご自身のリアルな体験からくるものですか?

平野 はい、そうです。これは、石丸さんが「綾ちゃんそのものだよ」と言ってくださったモファット像にもつながると思っているのですが、私は長くこの仕事をさせていただく中で、すごく浮き沈みがありました。何度も役者を辞めようと思った瞬間もありましたが、いろんな経験を糧にして今に至っています。

 そんな今までの人生も思いながら、歌い上げるというよりも、亜子さんの選んでくださった「言葉」を伝えようという思いで歌っています。

 さらに、オレノさんが作ってくださった美しく切ないメロディーは、まさに百人力です。自分の内から出たものをそのまま伝える感覚で、シンプルに演じることができたらいいなと思っています。

──浮き沈みのあった時期には、平野さんはどのようなことをされてきたのですか?

平野 「それでも頑張ろう」と気持ちの切り替えができるかだと思っています。

 落ち込むだけ落ち込んだらあとはもう上がるしかありません。いつまでも悪い状況のままずっといないで、海の底から頑張って泳いで、泳いで、地上に出るしかない。息が吸えるようになるまで這い上がる、というのを繰り返しています。

2025.05.27(火)
文=相澤洋美
写真=山元茂樹