救助する人、される人もさまざま

――もっと適当に作る人も?

 スタッフの食事とは別なので、ものすごく雑に、とってもまずそうなものを作る人もいますね。みんながピュアな気持ちで人助けのために船に乗るわけではありませんから。欧米では、履歴書にこうした活動への参加を書くと箔が付くので、資格を1つ取るような感覚で救助船に乗る人もいます。また、ボランティア活動をすることが豊かな国に住む人間の責務だという考えから、年に1回程度、無報酬でこうした活動に参加する人も。

――小島さんには普通にお給料が出ているのですか。

 はい。日本の病院でもらっていた金額に比べたらすごく安いですけれど。報酬がないところもたくさんあります。でも1年に1回しか参加しないような人は他に定職があるから、1、2ヶ月無報酬でもいいという考えなんですよね。動機が何であれ、ちゃんと働いてくれればそれでいいと思いますが、無報酬だと仕事の質が低下する傾向はあります。

――救助される側も単純な“弱者”ではない?

 「やはり過酷な環境を生き抜いてきた人たちなので、ぬるま湯育ちの日本人から見ればものすごく図々しいと感じることも多いですよ。例えば食事はみんなに同じだけ配っているのに『もっとたくさん盛って』としつこかったり。

 人生をかけて乗船する人が大半ではありますが、なかには、ヨーロッパへのビザが取れず飛行機に乗れないからと救助船を移動手段に使おうとする人とか、リビアの沿岸警備隊にお金を掴ませ、ちゃっかり見逃してもらっている人もいます」

――そんなこんながありながらも、救助船に戻る理由を聞かせてください。

 「日本は本当に平和で安全で、夜道を歩いても襲われないし、道端に注射器が落ちていることもない。インフラも公共サービスも整っていて、ただ日本に生まれたというだけでそれを享受できるのは、本当にありがたいことだと思います。

 でも、何ヶ月も日本に滞在していると、緊張感がなさすぎて脳が溶けるんじゃないかと思っちゃうんですよ。エンジンの回転数が落ちて、ボンヤリしちゃうというか。できれば今年の夏には、救助船に戻りたいと思っています。

 救助船では、多様な背景を持つ人たちと接することで自分の至らなさや価値観の偏りを実感したり、逆に意外な才能にも気づくことも。何よりも人間力が試される場であり、自分が成長できる場所です。

 それに加えて昔から海が好きで落ち着くのは、名前のせいかも知れません。『毬奈(marina)』も『小島』も海のイメージ(笑)。両親はともにごく普通のサラリーマンなのですが、そんな名前をつけてくれたことに感謝しています」

小島毬奈(こじま・まりな)

1984年、東京都生まれ。オーストラリア・メルボルンの高校を卒業し、看護学校、助産学校を経て、2009年に都内の病院の産婦人科に就職。2013年から海外の紛争地で助産師として医療活動を始める。2016年から地中海の捜索救助船で活動し、移民・難民救助船に8年間で11回乗務。その活動が注目され、2024年9月「情熱大陸」(TBS系)に出演し話題を呼ぶ。著書に『国境なき助産師が行く――難民救助の活動から見えてきたこと』 (ちくまプリマー新書)、『船上の助産師』(ほんの木)がある。

船上の助産師

定価 1,430円(税込)
ほんの木
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2025.05.03(土)
文=伊藤由起
写真=橋本 篤
写真提供=小島毬奈