この記事の連載

 独自の感性で食について綴るエッセイスト・フードディレクターのの平野紗季子さん。彼女がごはんやお菓子の楽しみを語るPodcast/ラジオ番組『味な副音声~ voice of food ~』が書籍になりました。全力で愛するものについて語る喜び、「好き」を共有することで見えてくるものについて伺います。


生麩の田楽をお弁当に持っていったら「スライムを食べている!」と笑われた

――平野さんは、小学生の頃から今日食べたものを記録する「食日記」をつけていたそうですが、Podcast番組『味な副音声』のように食について友人らと語り合うことはいつ頃から始められたのですか?

 好きな食べものについてまわりと共有するようになったのは食日記と比べるとずいぶん遅くて、大学生の頃からです。それまではクラスの友達には積極的に話したりはしなかったですね。ちょっと私の好きが過剰なところもあったので、出し過ぎない方が浮かなくていいかなって。隠あとがきにも書きましたが、大好物の生麩の田楽をお弁当に詰めてもらって学校に行ったら「スライム食べてる!」って笑われて、恥ずかしい思いをしたこともあります。

 SNSも、学校の友達と繋がる用のアカウントと、食について発信するためのアカウントは分けていましたし、密かに好きという気持ちを耕している感じでした。ただ、SNSやブログに書き続けたことがきっかけで同じ価値観を持つ方々と繋がれるようになり、そこから自信を持って「食べることが好きなんだ」と話せるようになっていきました。

――平野さんにも、食が好きであることを隠している時期があったのですね。共通の趣味を持つ方々と愛する食について話せるようになり、どのような気持ちが芽生えましたか? 楽しかった?

 楽しかったというよりも「分かち合うことの喜びって確かにあるんだ」という感覚をつかめたのが大きかったかも。ずっと、ごはんは一人で食べるほうがおいしいって考えていたんです。今も、一人で食べることによって目の前のものに夢中になれて自分だけの世界が広がっていくのは、尊くて素晴らしいことだと思ってはいるんですが、分かち合うという行為はそれとはまた別の喜びが開かれていく感じがあります。

2025.04.23(水)
文=高田真莉絵
写真=平松市聖