この記事の連載

「食べる」「分かち合う」は人生の中で大切なことの二大巨頭

――平野さんは「ごはんを食べる行為が、自分を自分たらしめる」と、よくおっしゃっています。では、好きなものを分かち合う行為は、ご自身にとってどんな存在ですか?

 “ものを食べて何かを感じる”ということは、自分の中では健やかさと直結していてとても大切なんですけど、やっぱりそれだけだと寂しい。誰かと分かち合って関わり合いを生んでいくことも、生きていくことで重要なことですよね。私の中で「食べる」「分かち合う」は、人生において重要なことの二大巨頭になっています。

 自分が対象と向き合って生まれた感動を、他の誰かと共感しあえる喜びって根源的ですよね。

――この感動は自分の中だけに留めておきたいけれど、逆にこっちの感動は人と共有したい、といったような線引きはあるんでしょうか?

 私、特技はラーメン店の「一蘭」のようなカウンターを想像で作れることなんです。どんな場所であっても、シャッと横にカウンターが出現して、「今から食べさせていただきますね」という気持ちになれる。マナーとか、周りのことが気になってしまうと、目の前の食事に集中することって難しいじゃないですか。それを一蘭のカウンターを頭の中で作り上げることで、夢中になれる状態にするんです。

 今って、ただでさえ情報過多な時代なので、純粋に自分が何かを感じている実感があること自体めちゃめちゃ尊いことだと考えています。なので、たとえ誰かと一緒に過ごしていたとしても食べることに対して、夢中でいたい。感想を共有するのは食べ終わってからでもいいし、料理と料理の間の雑談時でもいいと考えています。

 食べものの種類や味で「これは私だけのもの」、「こっちは人と共有するもの」と分けているのではなく、時間で分けているという感覚です。今、「(NO) RAISIN SANDWICH」という菓子ブランドの代表をやっているんですが、それもおいしいものを人と共有したいという気持ちの延長線かもしれません。「こんなにおいしいものができたから食べて!」という感情の表れです。

» インタビュー後篇を読む

平野紗季子(ひらの・さきこ)

小学生から食日記をつけ続け、大学在学中に日々の食生活を綴ったブログが話題となり文筆活動をスタート。雑誌・文芸誌等で多数連載を持つほか、podcast/ラジオ番組『味な副音声 ~ voice of food ~』(J-WAVE)のパーソナリティや、菓子ブランド「ノーレーズンサンドイッチ」の代表を務めるなど、食を中心とした活動は多岐にわたる。2025年3月に「ノーレーズンサンドイッチ」第1号店を東京駅にオープンさせた。
Instagram @sakikohirano

おいしくってありがとう 味な副音声の本

定価 2,310円(税込)
河出書房新社
» この書籍を購入する(Amazonへリンク)

次の話を読む【フードエッセイスト平野紗季子さん】コミュニケーションがままならないときや許せないときは「ドーナツを食べて自分の中のやさしい心を呼び起こします」

2025.04.23(水)
文=高田真莉絵
写真=平松市聖