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脚本家、取材の日々「リニアモーターカーの中で狙撃をしたいのですが、どんな弾がいいですか?」

――しかし、原作でもまだ明かされていない敢助の過去の詳細が判明するとは驚きでした。

 青山先生と一緒に進めていきましたが、事前に綿密な打ち合わせを設けて「今回この新しい情報を入れるからね」と共有されるのではなく、脚本のフィードバックにしれっと新しい情報が入っているんです(笑)。『黒鉄の魚影(サブマリン)』のときは、組織のNo.2であるラムのセリフで「最近姿を見せていないあの方」というセリフがさらっと足されていて、これは初めて観たお客さんはびっくりするんじゃないの!? この新事実をここで言うの!? とびっくりしました。

――ちなみに、脚本制作にはどれくらいの時間を要するものなのでしょうか。

 大体5~6カ月はかかるものですが、今回は高明が中国の故事成語を引用するものですからなかなか難しくて(笑)、いつもより長引きました。間違ったことは書けませんから、調べ物が増えるとやはり時間がかかりますね。例えば天文台を登場させるにも「レーザーガイド星とは何か」など調べないといけませんし、専門家の方に取材も必要になります。

――取材範囲も膨大になりそうですね……。

 コツは「専門家にこんなことを聞いたら怒られちゃうんじゃないか」と怖がらずに聞くことです。『絶海の探偵(プライベート・アイ)』の時から模擬魚雷や魚雷の撃ち方などを聞いて。専門家同士だったら「こんなことを聞いていいのだろうか……」と思ってしまうかもしれませんが、僕らはその分野においては素人ですから臆せず聞きに行くことが大事だと思っています。

 『緋色の弾丸』の際には「リニアモーターカーの中で狙撃をしたいのですが、どんな弾がいいですか?」と馬鹿正直に聞きに行ったら「銀の弾なら大丈夫です」という言葉を引き出せて、「シルバーブレット(銀の弾丸)は名探偵コナンの中でも重要ワードだし、すごくいい話を聞けた!」となりましたから。

――脚本では、銃の種類も事細かに記載されていました。

 改造銃やライフルの種類などについてですね。僕は仕事の99%が殺人事件なので、そういうことばっかり調べているんです。調べ物をする際、基本的にインターネットは使いません。出典がわからないものを書いてしまうと怖いですから。ネットを使うのは、専門書がどこにあるかを調べるときだけです。正しい情報と著者が載っていて、きちんと責任が取れるものに絞ってインプットするようにしています。

これまでの味を保ちながら新しい味も加えていく

――『絶海の探偵(プライベート・アイ)』公開時はミリタリーファンが参入したことも話題になりましたが、劇場版「名探偵コナン」シリーズは近年興収100億超えが当たり前になるほどの成長を見せています。この現象をどうご覧になっていますか?

 「名探偵コナン」は約30年もの間、これまでのお客さんをちゃんとつなぎ止めながら新しいファンを呼び込んでいます。これはとても難しく、大変なことだと思います。『科捜研の女』は京都の撮影所で25年撮影していますが、その過程で京都の老舗の料亭に取材すると100年続いているようなところがゴロゴロあるのです。どうやって人気を保っているのか聞いてみたら、皆口をそろえて「味を変えていかないと、“味が落ちた”と言われてしまう」と言うのです。

 味を守っていると新規の客は入らない、でも味を変えるとこれまでの客が離れるというジレンマのなか、難しい綱渡りをどう行っているのか――。その秘訣は「新旧織り交ぜ」らしいのです。1つのお店で、これまでのお客さんが楽しめるメニューと新しいお客さんを呼べるメニューを織り交ぜつつ、品数を増やしたように見せないようにする。これまで通りのメニューの数なのだけれど、実はその中には半分新しいメニューが混じっているから昔ながらのお客さんは離れないし、新しいお客さんも入ってくるわけです。

 劇場版「名探偵コナン」は、まさにこれを実践しているシリーズだと思うのです。これまでの味を保ちながら、新しい味も入れているな、と。本シリーズは僕と大倉崇裕さんが順番で書いていますが、二人で新旧織り交ぜを担っているように感じています。

2025.04.11(金)
文=SYO