合流し、分流した地下水脈

 ここで注目したいのは、陸軍青年将校たちは北一輝らが主導した国家社会主義という思想に強い影響を受けていたことである。結局、その延長線上に日本は悲惨な敗戦を迎えるわけであるが、こうした思想がどのように生まれ、なぜ陸軍内部に浸透していったのかを探ることが必要になってくる。

 一方で、当時の知的エリートたちが惹かれた思想に、共産主義(マルクス主義)がある。明晰な論理性をもつ共産主義思想は、要素還元主義的なアプローチが科学を想起させることもあり、科学技術の発展と軌を一にするようにして支持を広げていった。しかし結局のところ、共産主義は日本には根づかなかったのである。

 なぜ陸軍エリートたちは国家社会主義に傾倒し、失敗したのか? なぜ共産主義は日本に根づかなかったのか?──それを解き明かすうえで強力な武器になるのが、「地下水脈」という視点である。明治維新の頃、日本が取りえた国家像は、大きく分けて五つあった。結果的に日本は欧米列強にならう帝国主義への道を歩み始めたわけであるが、それ以外の国家像を支えていた思想は、その後も日本社会で伏流水のように流れ続けている。地下水脈化した思想は、日本人の行動様式に大きな影響を与えている。ここに注目することで、国家社会主義や共産主義の失敗の理由が、より明瞭に理解できるのである。

 もうひとつ注目したいのは、いわゆる「右翼」「左翼」とも、その源流はまったく別のところに発しているわけではなく、ときには合流と分流もしてきたことだ。近代化、富国強兵政策による社会の歪みを目の当たりにした当時の人々は、「この状況を何とかしたい」という強い思いに駆られ、さまざまな社会運動に身を投じていった。相反する思想ではあっても、同じ問題意識を持ち、議論を闘わせることもあった。その象徴として、本書では明治中期から大正末期まで続いた「老壮会」にも注目してみた。

同じ轍を踏まないために

2025.04.02(水)