偶然出会った男女3人の心情の変化を、繊細な映像美と抒情的音楽で綴った『国境ナイトクルージング』で、ヒロイン・ナナを演じるチョウ・ドンユイ。『ボーン・トゥ・フライ』ではワン・イーボーと共演、『少年の君』での真に迫る熱演も記憶に新しい彼女が真摯な役作りや撮影時のエピソードについて語った。


役作りのために、バスツアーにも参加

――本作への出演を決めた理由は?

 アンソニー・チェン監督とは以前、ショートフィルム『The Break Away(隔愛)』(21年)で仕事をしていました。ただ、そのときはコロナ禍ということもあり、オンラインでチェン監督の演出を受けながら、iPadを使って撮影するという実験的な手法だったんです。「今度は監督と一緒の現場で仕事をしたい」と思っていたので、本作への出演を決めました。

 また、異なる境遇の3人の若者が集い、さまざまな経験をする物語にも惹かれました。「映画を観てくれる人の国籍は違っても、多くの人に共感してもらえる作品になるはず」と思ったんです。

――中国と北朝鮮との国境の都市・延吉(えんきつ)で観光ガイドとして働いているナナの役作りについて教えてください。

 撮影前に、私は自ら観光ツアーに申し込み、バスガイドさんの仕事を研究しました。「彼女たちはどういった気持ちで、どういった風にお客さんに接しているんだろう」と。

 それで、気がついたことがいくつかありました。例えば、お客さんだけでなく、運転手さんにもかなり気を遣っていること。あと、誰とでもすぐに親しくなれる能力に長けていること。そして、朝鮮語の勉強もしたのですが、正直とても難しくて、なかなか自信が持てませんでした。

――また、ナナは挫折した元フィギュアスケーターという設定でもあります。

 これはナナに限らず、私の役作りなのですが、役柄に入り込むために「私は、この人物だ」と、強く思い込むようにしています。それに加えて、普段の暮らしの中で経験したことや感じたことを反映したり、周囲の女性を観察したりもします。そうやって試行錯誤していきながら、その役を作っていきます。

 今回は元フィギュアスケーターというよりも、夢に破れて挫折した女性ということを中心に考えて、ナナを作っていきました。

2024.10.22(火)
文=くれい 響