は、あまりに哀しい。後に台湾で一戦を交え敗れたオランダ総督が、「勝てるはずがない清と戦い続ける気力もさることながら、その旗のもとには、なぜか人が集まり続けている」と評した国姓爺なのに、なぜにそれほどまでに孤独だったのか。物心ついた頃から海賊として生きるしかなかった福松、自分の居場所とアイデンティティーを追い求める人生であった。そのためには、どこまでも行くことができる海に生きるしかなかったということか。
「今から三百年ほど前の日本は、既にハリウッド大作映画並みのものを作り出していたというところだろうか」
これも、『国性爺合戦』を賞する橋本治の言である。『海神の子』も大作映画になりえそうだ。ただ、あまりにスケールが大きいストーリー、登場人物たちがとてつもなくダイナミックすぎて、配役を誰にするかが難しすぎるかもしれないが。
海神の子(文春文庫 か 80-3)
定価 1,078円(税込)
文藝春秋
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2024.08.10(土)
文=仲野 徹(生命科学者・大阪大学名誉教授)