みゆきさんのパソコンに対する探究心は本物で、「自作のパソコンを作ってみたい」とネット環境のある部屋を求め、四回生になるタイミングで寮を離れていった。

 集中すると、何時間でも無駄口をいっさい叩かず、ひたすらパソコンに向かっている人だった。一方で、オフの時間はとても話し好きで、今でも覚えているのは、

「日本最初のインターネットカフェは一九九五年、京都で誕生した。場所は四条通の大丸の向かい側。ウィンドウズ95が発売される前にオープンした」

 というやはりパソコン関連の話だ。これだけ保守的なものが生き残っている一方で、ぬけぬけと真新しいことに手を伸ばすのが京都の奇妙なところである。さんざん伝統的な和食イメージの守護者として振る舞っておきながら、実はひとりあたりのパンの消費量が日本でもっとも多い街でもある。

 御簾が下がった向こうで、最新のノートパソコンを駆使して研究に打ちこむみゆきさんの姿は、京都の持つ二面性の象徴と言えたかもしれない。

 お互いまったく趣味嗜好が異なり、かつ学年が違っていても、良好な人間関係を築くことは可能だと教えてくれたのはみゆきさんだった。大学卒業後、入社した会社で先輩の女性社員たちと比較的スムーズに打ち解けることができたのも、相手との適度な距離感の保ち方をすでにつかんでいたことが大きい。

 寮を去るタイミングで、割のいい家庭教師のアルバイトの口を譲ってくれたのも彼女だった。その後、就職活動に励んだ際、いちいち東京まで足を運ばないといけない、地方の大学生の経済的負担軽減に(結局、就職先は大阪だったが)、どれほど助けになってくれたことか。

 そして、四年間にわたる寮生活のなかでもっとも鮮烈な印象を残し、いまだに不思議な感覚とともに思い返すキヨの存在を、最初に教えてくれたのもまた彼女だった。

六月のぶりぶりぎっちょう

定価 1,870円(税込)
文藝春秋
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2024.07.08(月)