わが十一番局は、夏休み中に彼氏ができた野分ちゃんが、年明けまでに二度門限を破り、寮監先生から今度破ったときはご実家に報告します、とやんわりと警告を受けた。本人も「局暮らしって窮屈だなあ」とぼやき始め、どうなることやらと気を揉んだが、何とか踏み留まった。その後も彼氏とは別れてはくっつきを繰り返しつつ、結局四年間、野分ちゃんとはともに局暮らしを続けることになる。
二回生になるタイミングで「薔薇壺、十一番局」チームは解散。新学期が始まる前の三月、私は新しい部屋に移った。
二回生からは三人部屋が二人部屋になる。部屋の広さは同じくらいなので、一気に自由度が増したように感じられた。
二年目のわが住まいは「薔薇壺、三十四番局」と決まった。フロアは一階から三階へ。階段の上り下りが面倒ではあったが、そのぶん窓からの眺めがよかった。これまでは隣の敷地のブロック塀が窓の正面に居座っていたのが、三階からだと西側になだらかに広がる街並みを見渡すことができる。はるか遠方には、五山の送り火のひとつである左大文字が、こんもりと木々が茂った山肌に「大」の字をへばりつかせていた。
「あっちのほうに鳥居形も見える。かなり小さいけど、わかるかな」
左大文字を差した指を左へと移していく、新たな同居人である東屋みゆきさんの言葉に従って目を凝らしたが、どれのことを言っているのかわからない。
「目がいいんですね」
「他の四つと違って結構、低い位置なんだよね、鳥居形って」
みゆきさんは三回生だった。去年からこの局で暮らしていて、同居人は同じ大学の同級生だったらしいが、年度が変わるのに合わせて、寮を出ていったとのことだった。
毎年、春の時点では、入居者の半数近くを占める新入生であるが、三回生になるまでにその六割が寮から去っていく。四回生になると、さらに人数が減る。
「送り火のときになったらわかるよ」
みゆきさんはヘアバンドの下からのぞく、秀でた色白のおでこをぽりぽり搔きながら、ちゃぶ台机の前に座った。
2024.07.08(月)