1月17日、第170回直木三十五賞の選考会が開催された。受賞作は、万城目学さんの『八月の御所グラウンド』(文藝春秋)、河﨑秋子さんの『ともぐい』(新潮社)に決定。
受賞発表の翌日、万城目学さんに話を聞いた。
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――このたびは『八月の御所グラウンド』での第170回直木賞受賞、おめでとうございます。昨日の記者会見でも「受賞するとは思っていなかった」と、意外そうでしたね。
万城目 自分が獲ることはないなと、完全に他人事のような気持ちでいました。昨日は待ち会のあと会見して、めっちゃ疲れたはずなのに、脳が興奮しているのか、ほとんど寝れなかったです。戦場からの帰還兵って、家に帰ったその日は寝られへんやろうなとか思いました。
森見さんのポジティブマインド
――発表前の待ち会には編集者の方の他に、森見登美彦さん、綿矢りささん、ヨーロッパ企画の上田誠さんがいらしたそうですね。どういう繫がりなのでしょうか。
万城目 10年くらい前、綿矢さんもまだ京都に住んでらっしゃった頃、僕が京都に行った際には森見さんと綿矢さんと3人でご飯を食べていたんです。上田さんも京都の方なので、時々そこに加わるようになって。
森見さんと上田さんとは毎年忘年会もしています。『八月の御所グラウンド』に収録された「十二月の都大路上下ル」は京都で開催される高校生の駅伝大会の話ですが、あれは基本的に12月の最終日曜日に開催されるんです。僕は2017年から取材のために大会を見に行っていて、ついでに忘年会をやるようになりました。
去年の忘年会で直木賞ノミネートの話になった時、僕が「どうせあかんから」とか「落選回数の日本記録を作るんや」とかネガティブなことをひたすら言っていたら、森見さんに叱られまして。「直木賞というのはお祭りであるから、楽しまないと損なんだ」と。
僕は、森見さんは執筆まわりの物事に対し、得てして後ろ向きになりがちやと思ってたんですけれど、そのときはめっちゃポジティブで。「これから数十分後に電話がかかってきて、自分の人生がどちらかに分かれる。そう思うと面白いじゃないですか」とか。なんて前向きなとらえ方やろうと、ちょっと感動しました。
2024.02.06(火)
文=瀧井朝世