市原がベテランらしくまとめたところで、「本番とお秒前!」というADの声が聞こえる。

「五、四、三――」カウントは三まで。きっかり二秒後、音楽が流れ出したかと思うと、MCの滝島がタイトルコールを高らかに宣言する。

《ゴシップ人狼、2024秋ぃー!》

甲斐 朝奈
甲斐 朝奈

《ゴシップ人狼、2024秋ぃー!》

 MCのタイトルコールで番組が始まる。テレビを見るのなんて、いつぶりだろう。なんとなく受け取る情報量を減らしたくなって、テレビの持ち主であるいしさんに「音量下げられますか」と尋ねた。

「うるさかった、かな?」

 気まずそうな小羽石さんに、首を振る。

「いえ、ただちょっと、大音量で受け止めるにはまだ心の準備が出来てないというか……これから、出演者の人が、いろんなゴシップの話をするんですよね?」

「まあ、そういう番組だから」

「すごい番組ですよね」

「そうだね。だいぶ攻めてるよ。イニシャルトークになることもあるけど、実名出すときもある。事前の許可取りもほぼしてないし。文春みたいな週刊誌ですらちゃんと事前に通達するのにね」

 画面にはMCだけが映っており、番組が第八回、四周年を迎えたことへの感慨や、この番組がいかに尖ったものであるか、八回も続いていることが奇跡であるというようなことを述べていた。

「本当に、観る? 消してもいいけど」

 手元の機器で音量を下げながら、小羽石さんが不安げな顔をした。

「いえ、見ますよ」

《この芸能界という村で生きる七人の〈語り手〉たちに、ルーレットで指名された順にゴシップエピソードを話していただきます。ゴシップは誰に関するものでもアリ》そこでMCはただし、と間を置いた。《この村にはわるーい噓つきの人狼がいるのです。人狼は噓のゴシップエピソードしか語りません。ですから、ここで語られたエピソードが本当なのか噓なのかは最後まで分かりませんのでご注意ください》

「ああ、最後まで視聴率を維持する狙いってことですよね」

2024.07.07(日)