この記事の連載

 開催国枠で出場した東京オリンピックでは、予選3戦全敗。長く勝てない状況を打破すべく、ヘッドコーチに就任したのが、同大会で女子日本代表を銀メダルに導いたトム・ホーバス氏でした。

 迎えた昨年の「FIBA バスケットボールワールドカップ2023」。日本はアジア勢最高位となり、48年ぶりに自力でのパリオリンピック出場を果たします。

 その彼らの激闘を描いた映画『BELIEVE 日本バスケを諦めなかった男たち』には、独占インタビューなどによって明らかになった、大会の舞台裏や選手たちの想いが詰まっています。そこで映画には映らなかった秘話などを、大西雄一監督に教えてもらいました。(全2回の後篇。前篇を読む


ベネズエラ戦のワンプレー

――前回のインタビューで、試合映像を50回以上見たとおっしゃっていましたが、思い出に残っているシーンはありますか?

 あります。まずワールドカップで17年ぶりに勝利したフィンランド戦は、多くの人があの試合の意味も分かっているし、強く印象に残っていると思うんです。

 それに比べると、次に勝利したベネズエラ戦は印象が弱いと思うんですね。逆転劇としてもフィンランド戦が18点差、ベネズエラ戦が15点差ですから、フィンランド戦の方が目立つ。

 ただ、15点差を逆転したあの瞬間。馬場(雄大)さんが、こぼれたボールを自陣からゴール下まで運び、最後は自分で行かずに比江島(慎)さんにパスを出しましたよね。僕はあのプレーこそ、AKATSUKI JAPANの「信じる思い」が全てこもった、ワールドカップを象徴するワンプレーだと思っています。

――信じる力、タイトルのBELIEVEにも通じますね。

 実は最初に僕がもらった企画書では「諦めなかった男たち」というタイトルだったんですよ。でも、もっとあのワールドカップを思い出せるタイトルにしたいと思ったときに「BELIEVE」という言葉が思い浮かんだんです。

――以前、トム・ホーバスHCに取材をしたことがあるのですが、ワールドカップでは粘り強く、何度も選手たちに「信じることが大切だ」と伝えたとおっしゃっていました。

 わかります。だからインタビューでも全員に「信じる力を感じた瞬間はいつでしたか?」と聞きました。多くの方がおっしゃっていたのは、フィンランド戦で18点差がついたときのこと。とても厳しい局面でしたが、あのときチームの誰1人として諦めていなかったし、負けると思っていなかったというんです。

 では彼らはなぜ、そこまで信じてこれたのか。映画では、世界のどのチームよりも長い時間、コツコツと練習をしてきた話にフォーカスをしているのですが、それ以前に選手の皆さんがおっしゃっていたのが「トムさんが自分たちを信じてくれたから、自分たちも信じられた」と。彼らの信じ合う関係性はすごいなと思いましたし、手前味噌ですが、本当にいいタイトルにしたなと思っています(笑)。

2024.06.06(木)
文=林田順子
写真=石川啓次