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劇中のライブシーンは必見

――劇中では、GEZANの演奏をバックに森山さんがライブするシーンがありますね。客席にダイブする森山さんの表情に惹きつけられました。

 あそこは芝居じゃなくて、ただのライブでしたね。未來さん、ダイブして目の上にたんこぶ作って帰ってきましたから。というか、普通にミュージシャンとして成立するようなライブができるって、やっぱすごいですよ。例えばボクシングの映画をボクサーが観たら「こんなパンチ打たねえ、当たんねえよ」とか、テニス選手がテニスの映画を観たら「こんな打ち方、普通しないわ」ってなると思うんです。でも音楽家から見ても、未來さんのライブは音楽として成立してた。もちろん、演奏してるのが自分達っていうのはありますけど、未來さんはちゃんと同じ時間の中に入ってきてたから。

 そのライブのシーンが未來さんのクランクアップだったんですけど、抱き合って、涙が出そうなぐらい高まりました。でも、翌日に迎えたオールアップは最悪で(笑)。「踊ってばかりの国」の下津(光史/Vo, Gt)の実家の天井に穴を開けさせてもらって、天井からカメラで主人公たちがピザを食べたりビールを飲んだりするシーンを撮影したんです。撮影終了後、そこでもみんなから抱きつかれたんですけど、小泉今日子さんからもらったお気に入りの赤いコートがビールやピザまみれになって、すごいシュンとしながらホテルに帰りました(笑)。

マヒトゥ・ザ・ピーポー

2009年 バンドGEZANを大阪にて結成。作詞作曲をおこないボーカルとして音楽活動開始。うたを軸にしたソロでの活動の他に、青葉市子とのNUUAMMとして複数のアルバムを制作。映画の劇伴やCM音楽も手がけ、また音楽以外の分野では国内外のアーティストを自身のレーベル十三月でリリースや、フリーフェスである全感覚祭を主催。また中国の写真家Ren Hangのモデルをつとめたりと、独自のレイヤーで時代をまたぎ、カルチャーをつむいでいる。2019年ははじめての小説、銀河で一番静かな革命を出版。GEZANのドキュメンタリー映画 Tribe Called DiscordがSPACE SHOWER FILM配給で全国上映開始。バンドとしてはFUJI ROCK FESTIVALのWHITE STAGEに出演。2020年1月5th ALBUM 狂KLUEをリリース、豊田利晃監督の劇映画「破壊の日」に出演。初のエッセイ「ひかりぼっち」がイーストプレスより発売。ユリイカ2023年4月号にて「マヒトゥ・ザ・ピーポー」特集が組まれた。今作では初監督、脚本、音楽を担当。

『i ai』

2024年3月8日(金)より渋⾕ホワイトシネクイントほか全国順次公開
出演:富田健太郎、さとうほなみ、堀家一希、イワナミユウキ、KIEN K-BOMB、コムアイ、知久寿焼、大宮イチ、吹越 満、永山瑛太、小泉今日子、森山未來
監督・脚本・音楽 マヒトゥ・ザ・ピーポー
撮影 佐内正史
上映時間:118分
https://i-ai.jp

次の話を読む「この映画が観客に溶けだして、沈んだ現実の色が変わっていく」マヒトが『i ai』に刻んだ思いとは

2024.03.11(月)
文=石橋果奈
撮影=平松市聖