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余白を大事にして映画と向き合いたかった

――だからこそ、写真家の佐内正史さんに撮影をお願いしたんでしょうか? 佐内さんが長編の映像作品を手がけるのは、今回が初めてだそうですね。

 そうですね。まあ、佐内さんはお願いしたというより、佐内さんから名乗りあげてくれたんですけど(笑)。映画のキービジュアルを撮った翌月に「マヒトくんの映画は、僕が撮らないとダメかなと思って〜」って電話で。佐内さんって、写真家としてのキャリアを始めた頃、家に引きこもっていたそうで。そんな佐内さんをいろんなところに連れ出してくれたのが、荒木経惟さんだったらしいんですよ。それで「なんかマヒトくんを見た時に、その役を僕がやんなきゃいけないと思って」と言ってくれたんだけど、俺ってまあまあ外に出てるし、まあまあ友達いるけどなって(笑)。

 でも、うれしかったですよ。佐内さん自体、動物的にその場所にいるような人だけど、CMとか商業ベースの仕事もしていて。大きな座組の現場に入っていく難しさっていうものが、ご自身の経験としてあったんだと思うんですよ。きっと、俺が「余白を大事にして映画と向き合いたい」と言ってた部分を守ろうとしてくれたんだと思います。

――商業映画と“マヒトさんのやりたいこと”の橋渡しをしてくれたんでしょうか?

 緩衝材になってくれたところはありましたね。例えば映画の撮影中も、プロデューサーが「マヒトさん、ここのカットって普通は逆からも撮ったりするんですよ」って言ってきた時に、俺は「別に普通とか狙ってないんで」みたいなことを返して、ちょっと言い合いになって。そしたら佐内さんが「ま、これはマヒト監督の映画なんで、オッケー! 次の現場行きましょう!」って間に入ってきてくれたんです。あ、意外とそういう立ち回りできるんだ、って(笑)。

2024.03.11(月)
文=石橋果奈
撮影=平松市聖