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 ロックバンドGEZANのフロントマンを務めるマヒトゥ・ザ・ピーポーさん。小説執筆や映画出演、フリーフェスや反戦デモの主催などさまざまな活動を行い、自身の思いや言葉を届けてきた。このたび彼が初監督を務め、2022年の東京国際映画祭にも正式出品された映画『i ai(アイアイ)』が、3月8日から渋谷ホワイトシネクイントほか全国順次公開される。

 本作は、GEZANと関わりの深い実在の人物をモデルに描いた青春映画。主人公コウをオーディションで約3,500人の中から選ばれた富田健太郎さんが、作品の要となるバンドマン・ヒー兄を森山未來さんが演じる。さらに永山瑛太さん、小泉今日子さん、吹越満さんなど実力派キャストが脇を固めた。映画の反響はすさまじく、渋谷ホワイトシネクイントでは火曜日まで既に満席だという。

『i ai』の公開に先駆けてマヒト監督にインタビューを行い、映画を撮ることになった理由や、本作への思いを聞いた。

≫【後篇へつづく】「「この映画が観客に解け出して、沈んだ現実の色が変わっていく」マヒトが『i ai』に刻んだ思いとは


きっかけは映画の神様に肩を叩かれたという感じですかね(笑)

――そもそも、映画を作ることになったきっかけはなんだったんですか?

 映画の神様に肩を叩かれたという感じですかね(笑)。豊田利晃監督の映画『破壊の日』(2020年公開)に役者として出演した時に、現場にいろんな才能が集まって、映画が出来上がっていく過程を見たんです。映画作りの現場の在り方が、自分たちがやっている「全感覚祭」(入場無料、投げ銭方式で開催してきたフェス)と似ている感じがして。

 今回の映画は、監督・脚本・音楽と全部自分でやってはいるけど、チームで作ることで自分だけのストーリーじゃないところまで発展するような気がして。その、映画の立体感みたいなところが語りかけてきた感じがしました。

――作品の方向性はどのように決めていきましたか?

 まず、映画のルールを知り尽くしているようなチームでは作りたくなかったんですよ。観た人から「初監督作品のわりに、上手にできたね」と言われることを狙ってるわけではないから。音楽でもそうだった。制作に携わるほど初期衝動というか、最初の何も知らなかった頃には戻れない。だから、まだ映画のことを何も知らない、今の余白いっぱいの時間を楽しみたいなと思いました。

 あと、音楽家が作る映像作品にありがちな、ミュージックビデオの延長だったり、コマーシャルが繋がっていたりするような映像にはしたくないなと。映画というものをまっすぐに撮りたかった。

2024.03.11(月)
文=石橋果奈
撮影=平松市聖